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マチカド芸術

渡辺行夫彫刻群/紋別市

大山山頂園に点在する抽象彫刻

2023.10.20 UPDATE
マチカド芸術

 
 紋別市街の背後に悠然と立つ標高334メートルの紋別山は、市民たちから「大山」と呼ばれ親しまれている街のシンボル的存在です。
 1966(昭和42)年、山頂にオホーツク展望台を設置したのを皮切りに、遊歩道の整備やコテージの開設などが進み、1994(平成6)年にはテレビ中継塔を併設した大山自然展望台「オホーツク・スカイタワー」がオープン。山頂一帯は、紋別市街の全容やオホーツクの美しい海岸線が一望できる「大山山頂園」として多くの観光客で賑わう人気スポットになりました。

大山山頂園の前庭に並ぶ渡辺行夫さんの作品は全部で9基あります

 紋別市出身の彫刻家・渡辺行夫さんが、この大山山頂園に自身のモニュメントを寄贈したのは、「オホーツク・スカイタワー」のオープンと同じ1994(平成6)年のこと。
 「当時私は、仕事で全道各地を回っていた兄が繋いだ縁で、オホーツク流氷公園に設置するモニュメントの制作依頼を受けていました。彫刻作品は、依頼を受けて制作する場合と、自由気ままに作りたいものを作る場合があります。私の手元にはそうした自由作品が多数あったので、ちょうどモニュメント制作でやり取りをしていた紋別市に相談したところ、大山山頂園への寄贈の話をいただきました」と渡辺さんは振り返ります。

紋別市出身の彫刻家・渡辺行夫さん。小樽市銭函のアトリエにお邪魔してお話を伺いました

 「生まれは紋別市ですが、父親が教師だったので転勤が多く、物心がついた頃はすでに違う土地で暮らしていました」という渡辺さん。小学校の頃から自由研究などで絵を描いたり彫刻を彫るのが好きで、作品を見た美術教師からの「将来は芸術家になりなさい」という言葉に背中を押され、「彫刻家」の夢を追うようになったといいます。
 金沢美術工芸大学で彫刻を学び、卒業後はメキシコの遺跡を巡る放浪の旅へ。世界遺産の「テオティワカン」や「パレンケ」のピラミッドに圧倒され、石の魅力を再発見。帰国後は仏像原型師を経て、父親と同じく教職に就き、教師と彫刻家という二足の草鞋で石彫りを中心とした数多くの彫刻作品を発表しました。

大山山頂公園に設置されている作品で、一つの石の塊の中に血管を通るような姿をイメージした「石の意」。一見すると異なる石に見えますが、仕上げを変えただけで、同じ御影石の塊から作られています

石組みを強調した「積乱石」。上の方がたなびいているように見せるなど、面白い表現方法を考えた作品

 「石は、私たちの生命とかけ離れた尺度で存在し続けています。その半永久的な側面に憧れを抱き、私は長く石を使って作品を作り続けてきました。自由に作った作品のほとんどは、石からインスピレーションを得て誕生したものです」と、渡辺さん。

花崗岩の白で作った作品。土の中でモグラが動き回ったトンネルが化石となって掘り出された様子をイメージした「モグラ道の化石」

銭函の海岸で入手した玄武岩で作った作品「ノボノボ」。生物の一端を思わせるような動きのあるものをイメージしています。「のんびり、ゆっくり、動いているのか動いていないのかわからないけれど、見えないところで動いているんだろうな」と渡辺さん

道立近代美術館の北の彫刻展の出品依頼があり作ったという「時空車」。花崗岩は磨くと濃くなり、磨かずに残しておくと白っぽく乱反射するそう。仕上げを変えることで異なる表情を同居させています

 のびのびと制作できる広い敷地を求め、小樽市銭函に居を移したのは今から約40年ほど前のこと。およそ5年の月日を費やして、アトリエ兼住宅を自らの手で建築し、渡辺さんの創作活動はより盛んになりました。「ある意味、自分の中で一番大きな作品といえば、この家かもしれませんね」と、渡辺さんは楽しそうに話します。

現在はイタドリを使った作品づくりが中心だという渡辺さん。「自生したイタドリを採取し、粉状にして使っています。乾燥は太陽光で行うので、化石燃料を使っておらず、地球環境に配慮した素材でもあります」。渡辺さんのイタドリ作品は環境問題に意識の高いスウェーデンから早い段階で注目されていて、現地の大学で野外展示を行うなど海を越えて展開されています

 現在は依頼を受けたもの以外はほとんど石彫りをしておらず、自生するイタドリを使った創作活動に力を注いでいるそうで、「私は常に、誰もやっていない石の表現方法に挑戦したいと考えてきました。そして今は、誰も使ったことのない素材での創作活動に挑戦しています。前例がないものなので、試行錯誤を繰り返していますが、イタドリもまた面白いものですよ」と、意欲的に語ります。

「最近はアクリル絵の具を使って着色もしています。作品に色をつけるのは初めてで す」と渡辺さん

 全道展「北海道新聞賞」、ヘンリー・ムーア大賞展「彫刻の森美術館賞」、石の彫刻国際シンポジウム「招待賞」など数々の賞歴を持つ渡辺さんは、創作活動以外にも銭函で野外美術展「ハルカヤマ芸術要塞」を主宰するなど、北海道に在住する作家の表現活動にも尽力。道内の芸術文化振興に大きく貢献したとして、2012(平成24)年には北海道文化奨励賞を受賞しました。

 大山山頂園に設置されているのは、半世紀近く創作活動を続ける渡辺さんの前期にあたる作品。中には学生時代に作ったものもあるそうで、彫刻家・渡辺行夫の遍歴と頭の中をのぞくことができる貴重な彫刻群となっています。
 渡辺さんが大山山頂園にモニュメントを寄贈した10年後の2004(平成16)年には、同じく紋別市出身の彫刻家・斎藤顕治さんの作品群も設置。両者の彫刻群は、街のシンボルと呼ばれる山の山頂で、半永久的にそこに佇み、紋別市の移り変わりを見守り続けることでしょう。

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