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マチカド芸術

Ancient Sun /長沼町

ながぬまコミュニティ公園に建つ巨大彫刻

2025.11.20 UPDATE
マチカド芸術

 
 緑が続く広大な敷地に、オートキャンプ場やテニスコートなどを併設する「ながぬまコミュニティ公園」。
 天気の良い日には町民や観光客が訪れ、清々しい空気の中で思い思いに過ごす憩いの場です。
 その公園でひときわ存在感を放つのが、石狩市にアトリエを構える美術家・川上りえさんの作品『Ancient Sun』。
 『Ancient Sun』とは日本語で「古代の太陽」。全長5メートルのステンレス製の彫刻で、円環状のフォルムからツノのような突起が伸びています。

川上りえ『Ancient Sun』

 「敷地がとても広大だったので、地面から立ち上がるような存在感のある形にしたいと思ったんです」と川上さん。
 ステンレス板を貼り合わせて溶接した造形は、研磨加工を施した表面が太陽光を受けてきらめきます。
 円の中心で腰を下ろしたり、くぐって遊んだりする姿を思い描いて制作されたそうで、訪れた人々に開かれた彫刻です。撮影当日も、愛犬を連れた団体が、円の中で記念写真を撮る姿が見られました。
 『Ancient Sun』が生まれたのは1994年。長沼町がながぬまコミュニティ公園の整備を進める中で、敷地内に彫刻を設置する計画が立ち上がり、彫刻家の国松明日香や丸山隆と共に、川上さんにも依頼がありました。

単に凹凸を平に整えるのではなく、あえて傷をつけながら研磨加工を施すことで、意匠性の高い仕上がりになっています。

奥に見える円形アーチの橋は選奨土木遺産である舞鶴橋。
戦前にかけられた橋で、新しい舞鶴橋の架け替えの際に有志によって保存運動が展開され、1995年にながぬまコミュニティ公園内に移設・復元されました。

 緑の中に鎮座するその姿は、ダイナミックでありながら可愛らしさがあるのも魅力。制作当時の自身の作風について、「あの頃はコロンとしていて、ハリがあり、土偶のような愛嬌のあるフォルムを好んでいました」と振り返ります。
「パブリックアートは公共の空間に、半永久的に存在するもの。個展などは、自身の内面に迫る作品を作ることが多いですが、公共に建つ彫刻は見る人に明るくエネルギッシュな印象を与えたいと考えています」。

生徒たちの成長を見守り続ける『古代の太陽』。
(写真提供/豊明高等支援学校)

 実は『古代の太陽』と名付けられた川上さんの作品が、札幌市北区にある豊明高等支援学校にも設置されています。
 三つの太陽が重なるように立つこの作品は、「登下校時に必ず見かけるので、元気が出るようなデザインを意識しました。校舎が横に長い建物なので、縦に伸びるフォルムを意識し、太陽を三つ重ねています」と川上さん。三つという数字は、友達の数を意識していて、二人よりも三人で付き合う方が気配りや思いやりが必要となり、一歩引いて全体を眺める視点を持つことにもつながるという思いが込められています。
 同校の陶芸授業では、『古代の太陽』のミニチュアづくりを行ったこともあるそうで、「粘土で再現した作品を見ると、とても嬉しい気持ちになりました」と笑顔で話します。

美術家・川上りえ

物事の現象から受け取るさまざまな感覚を手がかりに、生命観を表現。国内外での展覧会では、彫刻やインスタレーション、インタラクティブ・ワークなど、幅広い作品を発表。フランス、ポーランド、ルーマニア、韓国、台湾、アメリカなどでアーティスト・イン・レジデンスや展覧会を多数経験。2012年札幌文化奨励賞、2021年令和3年度北海道文化奨励賞受賞(北海道)。札幌大谷大学非常勤講師、札幌医科大学非常勤講師、北海道芸術学会会員、特定非営利活動法人S-AIR理事

 川上りえさんは千葉県生まれ。幼い頃から絵を描くことが好きでした。
 中学生のとき、父親の転勤でアメリカへ。言葉の壁に戸惑い孤独を感じる中、アートの授業だけは周囲と通じ合える時間だったといいます。
 「描いたり作ったりすることで、先生やクラスメイトたちに褒めてもらえて、そこだけは言葉がいらない世界でした」。
 帰国後、高校3年生で美大進学を決意。「決めたのが遅かったので、当然準備が間に合わなくて(笑)。でも、今振り返ると、浪人時代はとても大切な時間でした」と川上さんは話します。

 浪人時代、川上さんは予備校でデッサンを学びながら、粘土を用いた立体制作にも挑戦しました。「最初は思うように形をつくれませんでしたが、デッサンで人や物の構造を理解していくと、それが立体の感覚にも適用されていくんです。そうするとだんだん立体制作に面白さを感じるようになりました」。
 同時に、予備校の先生たちの中に金属を扱う作家が多く、素材としての金属にも興味を抱くように。先生たちの作品を目にしたり、美術館やギャラリーに足を運び金属彫刻を見るうちに、「金属で表現する抽象的な彫刻に魅力を感じるようになりました」と話します。

アトリエの2階には、川上さんの作品が多数並べられていました。

金属彫刻にとどまらず、様々なアート活動を行う川上さん。昨年は東川町で町民参加型のアートプロジェクトを開催。町内の施設せんとぴゅあ敷地内の建物面や木々に一定の高さで青色を塗布し、水面のイメージを出現させました。
今年の10月には、東川町で採取した土を使って地球をイメージしながら創作を行う「土」をテーマにしたワークショップも開催しました。「土や岩に対する興味が深く、昨年は知人の陶芸家さんに同行して土を採取し、野焼きで『石』を作りました。土を石の形にもどすことで、時間の逆行現象を生み出そうとしました」

 浪人時代を経て、多摩美術大学で立体デザインを、東京藝術大学大学院では鍛金を学び、鉄やステンレスなどの金属を自在に扱う技術を身につけました。
 「金属は磨けば光を放ち、経年によってサビが重厚さを纏う。自分の美意識にもっとも合う素材でした」。
 大学院修了後の1989年、北海道へ移住。農地が広がる石狩市内にアトリエを構え、自然に囲まれた環境の中で30年以上に渡り制作を続けています。
 自宅と隣接するアトリエは、鉄の切断や溶接をするための機材が揃っていて、大規模な作品を手がける際は足場を組むなど、まるで工場のような雰囲気。
 「これだけ大きなアトリエを構えることができるのは、北海道ならでは。隣近所に家もないので、深夜遅くまで作業ができます。『Ancient Sun』のような大きな作品も、この環境だからこそ作ることができました。ただ、真冬の雪だけは、毎年の試練です(笑)」。

機材が並ぶアトリエ内。倉庫のような空間で、工具が点在する鉄工場のような雰囲気です。

 長年金属と向き合い続けてきた川上さん。今は、素材としての金属を超え、その存在の意味にも関心を寄せるようになりました。
 「鉄は原子レベルでは私たちの体の中にもあるものです。生命と深くつながる存在なんですよね。地球の質量の三分の一が鉄であり、鉄が存在しないと宇宙が成り立っていない。鉄は神秘的で、愛おしいんです。もっと学術的に勉強したいと思っています」。

 緑の中に建つ『Ancient Sun』。
 太陽の光を受けて輝くその姿は、まるで生命そのものが息づいているかのよう。古代に生きる人々のたくましさの源となった『Ancient Sun』という名にふさわしい、永遠のエネルギーを感じさせます。

INFO
ながぬまコミュニティ公園
長沼町東6線北4、東7線北4、東6線北3
https://www.maoi-net.jp/kanko_nogyo/kanko/spot/community_park/
川上りえ
https://erikartgallery.wixsite.com/riekawa

雪山越 -YUKIYAMA KOERU-
日時:2025年12月27日(土) – 2026年3月8日(日)
オープニングイベント:2025年12月27日(土)
会場:〒048-1512ニセコ町中央通89 KIYOE GALLERY NISEKO
参加アーティスト/書道家 荒野洋子 彫刻家 国松希根太 美術家 川上りえ 陶芸家 吉田南岳(順不同)

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