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令和5年度北海道文化財団こどもアート体験事業見立てでつくる空想の学校「新新(にいにい)冠小学校」
朝日小学校・新冠小学校×加賀城匡貴

2024.03.21 UPDATE

統合する2つの学校が見立てを介して交流
2024年4月に統合される新冠町の朝日小学校と新冠小学校。両校のこどもたちの交流を深めることを目的に、アーティスト・加賀城匡貴さんによる「こどもアート体験事業」が実施されました。両校で取り組むのは、“見立て”で新しい空想の学校「新新(にいにい)冠小学校」をつくること。見立てとは?空想の学校とは?加賀城さんにお話を伺いました。
PHOTO/会場写真:大橋泰之(マカロニ写真事務所)、溝口明日花(マカロニ写真事務所)


 

 

 児童減少に伴う小学校の統廃合が全国的に進んでいる昨今。海と空と大草原に囲まれた新冠町でも、朝日小学校が100年を越える歴史に幕を下ろし、2024年4月から新冠小学校に統合されます。アートを介してこどもたちを交流させたいという両校の希望を聞いた加賀城さんが最初に思ったのは、「朝日小学校の閉校を、寂しいものにはしたくない」ということでした。
 「朝日小学校との“別れ”を軸にするのではなく、両校のこどもたちが全く新しい小学校に通うという、明るい出発にしたいと思ったんです」と加賀城さん。そこで企画したのが、既存のものを別の見方で捉えることで、人の顔や動物など他の何かに見えてくるという「見立て」の手法で、みんなでイメージを膨らませて新しい空想の学校「新新(にいにい)冠小学校」、通称“にいにい”をつくること。
 「両校のPTAの皆さんがとても熱心で、懇親会も開いてくれるなど、僕自身も皆さんとの交流をすっかり楽しんでしまいました」と加賀城さんは笑顔で話します。

 

空想の学校の校章をデザイン

 

 加賀城さんがまず着手したのが「校章」のデザイン。両校の校舎や新冠町の大自然などをヒントにアイデアを練り、それぞれの学校で校章をお披露目しました。
 「“にいにい”はまだ名前と校章しか決まっていない、どんな学校にするかはみんなと一緒に考えていきたい、とこどもたちに伝えると、興味を抱いてくれました」と加賀城さん。空想の学校“にいにい”の校章を目にしたこどもたちの中に、新しい学校への期待が芽生える手応えを感じました。

 

学校内で探す“にいにい”の仲間

 

 活動初日、教育委員会の協力も得て、「見立て」の授業を全クラスで行なった加賀城さん。新冠町に約1ヶ月間滞在し、2つの小学校を行き来しながら活動を続けました。
 「この企画の要となるのは両校の交流です。朝日小学校と新冠小学校は距離があり、頻繁に行き来するのは容易ではありません。そこで考えたのが、“アイデアの移動”です」と加賀城さん。
 「まずは学校内を観察しながら見立て作品(“にいにい”の仲間)を見つけ、タイトルを考えます。そして、そのタイトルを伏せてもう一方の小学校に写真を展示し、新たにタイトルをつけてもらいます。すると、同じものを見ても、見立てる人が変わることで、タイトルが全く違うものになるんです。これまで、さまざまな学校で見立ての活動をしてきましたが、今回は初めて僕自身のアイデアを挟まないように心がけました。こどもたちのアイデアがそのまま両校を行き来することで、直接顔を合わせているわけではないけれど、しっかり交流することができました」

 

見立ての楽しさを学校生活に

 


 1ヶ月間の活動の最後、朝日小学校を会場に2日間にわたり両校の交流会とお披露目会を開催しました。初日は協力し合いながら見立て作品を探したり、校庭で給食を食べるなど大盛り上がり。翌日は地域の皆さんも招いたお披露目会を行い、朝日小学校が見立て作品“にいにい”の仲間を展示する美術館となりました。
 「見立て作品探しでは、自然と両校の混合チームも出来ていて、非常に嬉しく思いました」と加賀城さん。「新冠小学校の1年生の女の子が、図工の時間に色画用紙で空想上の校舎を作ってくれたり、高学年の男の子が4月から学校の名前を本当に“にいにい”にしたいと思っているんだ、と声をかけてくれたり。みんなの中に新しい学校という気持ちがしっかり存在していることを改めて実感しました」と、振り返ります。
 空想の学校“にいにい”をつくることを通して、両校のこどもたちが仲間になっていく。こどもたちの想像力を源に、閉校する寂しさや不安は、新しい学校へのワクワクに変わっていきました。
 「4月からは新冠小学校がこの町の唯一の小学校になります。今回の活動の中で、こどもたちは見立て作品を探しながら、同じものを見ても、別の人が見ると、違う名前やタイトルになることを知りました。この経験を活かし、それぞれスタート地点が違っても、“新しい学校をつくる”という同じゴールに向かっていく過程の面白さや発見を、学校生活の中でも存分に楽しんでもらいたいです」

 

朝日小学校の場合 ※新冠小の場合は役割が逆になります

 

 

朝日小からイメージする太陽、幌尻岳などの山々、新冠小の体育館の屋根といったモチーフを、「冠」のイメージを軸にデザインした校章

電話の子機とコード。新冠小のタイトルは「べろながおんな」。実は朝日小のタイトルも「べろんちょ」でした

顔を傾けると見えてくる「よりめをしている人」

「さかさまな人」は、タイトル通りさかさまにするとわかります

すりガラスの向こうに見える飛び箱に付けられたタイトルは「ゆめをみている」


両校のこどもたちで見つけた見立て作品「なわとびのたき」と「丸目と矢じるし目」

夏休み中にも関わらずお披露目会には100名近い児童や保護者が集まりました

「これって怪獣に見えない?」「こうすると足に見えるね」など、大人も楽しそうに想像力を働かせています

加賀城さんとこどもたち。僕もそう見えた、私はこう見えた!など元気な声が次々と上がっていました

お披露目会に向けて、新しく発見した見立て作品のタイトルを清書

最終日は“にいにい”の学校要覧を配布。見立てで先生を紹介したり、沿革や目標、校歌も書かれている本格仕様です

美術館となった校舎内を親子で見学
 

 

1日目〈交流会〉

 


見つけた「見立て作品」はチェックします

見校舎内をみんなで大捜索

「見立て作品」は外にもあります

「この見立て作品のタイトルはなんでしょう?」という加賀城さんの問いかけに、みんな元気に手を挙げています

「会場になった朝日小の体育館

1日目の最後は給食の時間。屋外で手作りのカレーライスを楽しみました
 

 

2日目〈お披露目会〉

 

大活躍のPTAの皆さん

加賀城さんと共に2日間を振り返ります

にいにいのオリジナル缶バッチも制作しました

学校要覧を興味津々に読んでいます

にいにいの校旗降納を見守る加賀城さん
 

こどもアート体験事業

国内外で活躍するアーティストが学校や文化施設に出向き、子どもたちと一緒にワークショップや制作活動を行い交流する事業


かがじょう・まさき

1975年、北海道生まれ。英ボーンマス芸術大学中退。99年に「笑い」をテーマにしたステージパフォーマンス『scherzo』をスタート。公演/展覧会やワークショップなど、独自の活動を続けている。企画・原案を手がけたNHK Eテレ『ミ・タ・テ』で、札幌ADC準グランプリ、東京TDC賞ノミネート。著書に、学校図書『脳トレ!パッとブック』(教育画劇)、絵本『ねぐせきょうだい』(中西出版)。


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