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本田征爾 HONDA SEIJI

半醒半睡で見る白昼夢にインスピレーション

2024.07.26 UPDATE

 京都で生まれ育った私は、海への憧れと海洋生物への興味から、北海道大学水産学部へと進学しました。大学卒業後は、まぐろ延縄調査船に乗船。幼少期より絵を描くことが好きだった私は、必要最低限の水彩道具を持参して船に乗りました。
 延縄にかかる魚は胃袋の中も調べます。そうすると、丸呑みされた深海魚など、珍しい魚がたくさん出てきます。船内での作品制作のモチーフになったのは、そうした珍しい魚たちでした。船内では水も貴重品。作業スペースも限られているので、わずかな水を使いながら、小さな机の上で、小さな絵を描き続けました。私の作品の多くが比較的コンパクトなサイズなのは、船内の限られたスペースで絵を描いた経験が大きく関係していると思います。
 下船後は京都で初めての個展を開催。その後も、乗船と個展を繰り返す生活を約10年続けました。インターネットや電話を滅多に使えない船内での暮らしは、自分と向き合う時間がありました。海上で自問自答をしながら、創作活動を続ける中で出した答えが、妻が働いていた札幌を拠点に作家活動に専念することでした。今はもう船に乗ることはありませんが、船上での経験は私の作家活動の原点です。
 私は抽象とも具象ともつかない半具象的な表現方法を好んでいます。水彩やアクリル、油彩、平面、立体など、素材や技法には特にこだわりはありません。
 基本的に陽の明るい時間に創作して、日中に少しだけ昼寝をします。半醒半睡の中で見る白昼夢のようなものからインスピレーションを得ることが多いです。妻や愛犬、音楽、詩など暮らしの中での出来事も、直接的ではないけれど、無意識に刺激を得て作品に反映されることもあります。また、私は毎日、カードサイズの絵を日記のように描いています。無心で机に座って手を動かし、その時々の線の動きや滲みなどからヒントを得て、描き始めてから、何を描くのかを決めることもあります。
 今回の個展のテーマは「天国惑星」。これは言葉遊びが好きで作った造語ですが、ここ4〜5年の間に描き溜めた作品の中から、天国や天使、星のモチーフを扱った作品を展示しています。アートスペースの広い壁を使って、額を変えたりランダムに配置するなど、流れのある展示になっているので、楽しんでいただけると嬉しいです。
 札幌で暮らし始めて20年以上経ちますが、装丁の仕事や新聞連載の挿絵、ジャケットのアートワークなど、ここ最近は楽しい依頼が増えています。船に乗っていたので、創作の場に強いこだわりがあるわけではないけれど、四季にメリハリがあり、季節それぞれの気候が心地の良い札幌は好きです。雪が降ると今でもワクワクします。この街で暮らしていたからこそ生まれた作品も決して少なくありません。

星の庭

背中合わせ(遊びと瞑想)

にぎやかな夜の果て

落下揺する夕暮

母なる月の下に

Profile

本田征爾

長岡京育ち、札幌在住。主に透明水彩、アクリル、ガッシュ、油彩による平面作品、石粉粘土による立体作品を制作。素材やテーマ、コンセプトには特にこだわらず、此岸と彼岸の狭間に、ちょっと怖くて、愛らしくて、浮遊感のある、小宇宙的作品群を制作。掌の中から指先に小さな喜びを脳内感応させて全身から湧きあがるささやかな恍惚感を大切にしている。2023年「GALLERY HOUSE MAYA 第22回 装画を描くコンペティション」グランプリ受賞
●インスタグラム
@whisperinstone

北海道文化財団アートスペース企画展 vol.56 本田征爾展『天国惑星』
2024.6.18~8.26 9:00~17:00
※土日祝休館
※都合により臨時休館する場合があります。
場所/札幌市中央区大通西5丁目11大五ビル3F
問い合わせ/011-272-0501

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