2017年、上川町に戦後初の日本酒の酒蔵「緑丘蔵」を新設し、“地方創生蔵”をコンセプトに日本酒造りをスタートさせた上川大雪酒造。北海道産の米と地元の水にこだわり、小仕込みで丁寧に造られた酒はここでしか味わえない唯一無二の価値を生み出しています。
クリエイティブディレクターを務める新村銀之助さんが、創業前、半年かけて完成させた上川大雪酒造のシンボルマーク。「受け継がれていく普遍的なもの」として、日本酒と家紋のイメージが見事に合致。
その酒の“顔”ともいえるラベルのすべてに配置されているのが、シンボルとなっている家紋のようなロゴマーク。制作を担当したのは、同社のクリエイティブディレクターを務める新村銀之助さんです。新村さんは化粧品メーカーでクリエイティブ部門の責任者を務めていた時代に、塚原敏夫(上川大雪酒造・社長)さんと出会い、その縁で創業以来クリエイティブに関わる全般とブランディングを担ってきました。「日本酒の顔となるラベルについては、当初はかっこいい書(筆文字)のデザインを追究しましたが、単体ではいいなと思っても、ほかの商品と並べた時に埋もれてしまう気がしたんです。酒蔵は地方創生をコンセプトにしていましたので、ずっと先まで受け継がれていく普遍的なものが作れないだろうかと考えた末に家紋のデザインにたどり着きました」と新村さんは語ります。
碧雲蔵「十勝」の創業から4年、チーズに合う日本酒として大ヒットした「with Cheese」。ラベルはイエロー、グリーン、ブルーの3色が目を惹くポップなデザインながら、“家紋”が配置されています。
まずは北海道、大雪山というところから「雪」をイメージしたと言う新村さん。「雪の結晶は六角形。これをベースに作ると、繊細な仕上がりになってしまって……もう少し日本酒の持つ力強さを表現したいと思っていたときに、日本酒の五味(※)を表す五角形はどう?という意見が出て、あらためてデザインを練り直すことにしました」。結局、細かい調整を含め、ロゴが完成するまでに半年もの時間をかけたといいます。その甲斐あって今では「このマークのお酒=上川大雪酒造」と認識されるほど、その存在感は大きくなりました。
※五味とは「甘い」「辛い」「酸い」「苦い」「塩辛い」の5つの味覚を示す言葉で、日本酒の場合は、「塩」は「渋」に変わる。
見ているだけで楽しくなる「Enjoy日本酒」シリーズ。ラベルはサーフアートのパイオニア豊田弘治氏が手がけています。「こんなデザインなら日本酒を飲んでみたいなと手を伸ばしてもらえるようなモノづくりをしたい」。豊田さんと新村さんはそんな思いを共有しました。
2020年には帯広市に2つ目の酒蔵「碧雲蔵」を新設、さらに上川町内にレストランやチーズ工房、ホテルの運営を行うなど、企業としての成長も著しい同社。事業規模が大きくなるほどロゴマークは家紋のように、一目でわかるアイコンの役割も果たしています。まさにこのロゴは上川大雪酒造が紡いでいく歴史や文化、作り手たちの物語を深く刻みながら、受け継がれていく“家紋”。世代を超えて愛され、信頼されるブランドの証として、上川大雪酒造の未来を照らし続けます。
地方創生への思い、日本酒の伝統…大切なものを守っていくために、変えなければならないことには躊躇なく挑んできた同社。ブランドの礎を築きながら、心に響くモノづくりに情熱を注ぐ姿勢は酒造りだけでなく、商品を魅せるクリエイティブにも共通しています。