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桑迫伽奈 KUWASAKO KANA

最後に残った線は記憶の残響

2025.03.24 UPDATE

 物心がついた頃から絵やものづくりが好きだった私が、美術の道を本格的に意識したのは高校3年の秋。当初はデザイン系の大学を希望し、美大受験予備校でデッサンを学んでいましたが、絵を描くことが面白くなり、進路を変更して北海道教育大学の美術コースを受験しました。

「masa hadapan_No matter how much we move forward, the horizon remains distant.」
2024年制作(撮影:成田貴亨)
奈良でのレジデンスにて制作した過去最大サイズの作品。元となる写真はマレーシアで撮影した砂浜の波紋で、それを大きく投影して見た時にその線が山並みのようにも見えました

 大学1年目の秋、東京の国立西洋美術館で『アルブレヒト・デューラー展』を観て、「版画といえば木版画」としか思っていなかった私はデューラーの銅版画に心を奪われ、版画を専攻。大学では、写真や現代美術、デザインなど他分野の授業も受けることができ、特に現代美術の授業では、〈絵画専攻は平面作品しか作ってはいけないのか〉、〈素材や制作方法は安易に選んでいないか。楽だから、簡単だからではいけない〉、〈作品のサイズはそれがベストなのか。制作スペースの問題でサイズが小さくなってはいけない〉など、多くの学びを得、卒業して10年以上経った今でも戒められるような気持ちになります。

2024年制作(撮影:成田貴亨)
奈良での滞在制作中の作品で、今回の個展でも展示します。ベースには奈良の麻布、糸は京都で仕入れたものを使用しています。写真に写っている光の線のみを抽出して刺繍しました

 学生時代に作品制作のために、アルバイト代で一眼レフカメラを購入。自分の目では捉えきれない細部を掘り下げるのに写真はとても有効だと気づきました。写真に興味を持つようになったというよりは、気がついたらカメラが私の記憶と眼の補助をしていた、という感覚です。

「after the rain」
2020年制作
2020年の初個展での展示作品。刺繍写真最初期のもの。この個展では“雨上がり”をキーワードに、水や循環することなどを考えながら制作した作品です。

 2016年の初頭、東京で受けた写真講座で「写真に手を加えた方が思い描いているイメージに近づくかも」と気づき、ペンや筆でのドローイング、写真を貼り合わせるコラージュなどを試すもしっくりこず。試行錯誤の末に「糸」という素材と「縫う」という行為にたどり着きました。最初の作品が完成した時、ぺらぺらの紙だった写真にどくどくと血が流れ出したような感覚になり、ラテン語で動脈を意味する「arteria」と名付け、以降、刺繍写真の作品は全てシリーズ「arteria」としてまとめています。
 私は、“抽象的な写真を撮る作家”“写真に刺繍する作家”と思われがちですが、今回の個展『浮遊する光、残響』は、布に刺繍をした作品のみで構成しています。
 シリーズ「arteria」では写真に沈む線、浮遊する線を針と糸を使って掬い上げたり強調したりすることに重きをおいていましたが、「その線だけになったときそれはどんな景色なんだろうか」と考えたことが刺繍のみの表現を試みるきっかけでした。

「不自然な自然」
2021年制作
2019年からスタートしたシリーズで、ひとつの場所の⾵景を何層にも重ね合わせることで別の新しい景⾊を引き出しています。人間によって管理されている自然であること(街路樹、公園、山や森の遊歩道など)、ランドマーク的な人工物は写さないこと、ある一地点から見えるあらゆる角度の景色を写すことをルールとして撮影しています。

 私の記憶の中の景色、カメラで記録した景色、そこから抽出された線が混ざり合い、反響し合い、最後に残った線は“残響”のようだと思いました。
 私の作品では、どんな場所で何を見たのかが重要ではありません。そこから残った微かな気配を通して、別の新しい景色に出会ったり発見があれば良いなと思っています。

「複製される感性」展 展示風景
(撮影:百々武)
入江泰吉記念奈良市写真美術館での展示風景

Profile

桑迫伽奈

北海道札幌生まれ、札幌在住。北海道教育大学岩見沢校美術コース卒業。写真をベースとした作品制作を行う。主な作品に、目で見た景色と記録された景色の差異に興味を抱き制作している刺繍写真シリーズ「arteria」や、北海道をはじめとした日本国内の様々な土地の森で撮影し、”見ている景色の不確かさ”や”自然という言葉の定義”について考察したシリーズ「不自然な自然」など。

●ホームページ
https://kanakuwasako.com

北海道文化財団アートスペース企画展 vol.59 桑迫伽奈『浮遊する光、残響』
2025.2.18~4.25 9:00~17:00
※土日祝休館 ※都合により臨時休館する場合があります。
場所/札幌市中央区大通西5丁目11大五ビル3F 
問い合わせ/011-272-0501

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