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特集

私設図書館のいま

2021.11.30 UPDATE

読書環境が全国ワーストレベルと言われている北海道。学び場として、出会いの場として、地域の中の居場所として、まちの文化を下支えしているのが、私設図書館です。今回は私設ならではの取り組みや工夫、魅力をお伝えします。

 

全道各地で読み聞かせ。剣淵町の移動図書館車

けんぶち絵本の里を創ろう会

 

 
道内各地に絵本を届ける絵本キャラバンが始動

 「絵本の里」として知られる剣淵町。その背景には町の青年有志によって立ち上げられた「けんぶち絵本の里を創ろう会」による奮闘がありました。
 同会は1988年に、絵本による町づくりを目指して設立。今年で30周年を迎えた「絵本の館」の開設にも尽力するなど、その活動は「ふるさとづくり大賞」総理大臣賞をはじめ、多くの賞を受賞しました。現在も様々な活動に取り組む同会が今年、新たな企画として立ち上げたのが、移動図書館車で全道を巡る絵本キャラバンです。
 「数年前に出版社から移動図書館車を寄贈されたのですが、年に数回しか利用する機会がなく、もっと活用できないものかと考えていたんです」と話すのは同会事務局の渡邊一宝さん。「移動図書館車を活用して道内各地に絵本を届けたい」と理事会に提案したところ多くの賛同を得て、絵本キャラバンは始まりました。
 

人気絵本のキャラクターが描かれたキャラバンカー。組み立てには15分ほど時間がかかる

 
 キャラバンカーに積まれているのは約550冊の絵本。書棚のある車内は4畳ほどの広さで、靴を脱いで絵本を読むことができます。内側の扉には人気絵本のキャラクターが描かれていて、見た目も華やか。訪問先では車内を開放して自由に絵本を読んでもらうほか、紙芝居や絵本の読み聞かせも行っています。
 絵本の里・剣淵町のPRも兼ねているため、絵本キャラバンは当面無料。受入先を募集していて、希望があれば、日程を調整して絵本と共にやってきます。

 

暖かくて明るい居心地の良い車内。天井や壁に描かれたイラストに気持ちが弾む

 
 
絵本は想像力を育み、心を豊かにする

 自身も子どもの頃は何度も絵本の館を訪れたという渡邊さん。「絵本は子どもの想像力を育み、心豊かにしてくれます。遊びの選択肢の一つに読書があることはとても良いことです」と、読書の機会に触れる大切さを話します。
 コロナ禍により、当初の予定回数よりも少なくなったものの、8月から10月にかけてむかわ町、中札内村、留萌市の3箇所に出動し、200人以上の子どもたちの笑顔に出会うことができました。
 
 

「道内各地を巡りながら、ご当地グルメを堪能するなど、私たち自身もめいっぱい楽しんでいます」と渡邊さん

 
 
 「キャラバンカーを開けると子どもたちがわぁ!と歓声をあげ、楽しんでくれました。今年は緊急事態宣言があり、行くのを断念した地域もあったので、来年はもっとたくさんの町に行きたいです」と意欲的な渡邊さん。
 来年も春から始動するという絵本キャラバン。たくさんの絵本と共に、子どもたちに読書の種を蒔きながら、全道各地を巡ります。

 

DATA

けんぶち絵本の里を創ろう会(剣淵町「絵本の館」内)
剣淵町緑町15-3
開館時間/10:00〜17:00
休館日/水曜・年末年始
Tel.0165-34-2624

 

 

1千冊が並ぶ住宅街の私設図書館

和楽な図書館

 

沖縄料理店時代の面影をそのまま残す外観

 
  
本を介して利用者同士がつながる場

 「釧路自主夜間中学 くるかい」の代表・賀根村伸子さんが、夫婦で営んでいた沖縄料理店を閉め、「和楽な図書館」を始めたのは2020年7月のこと。
 
 

賀根村さんは不登校ひきこもりサポートルーム「ハンノキ林」や、自主夜間中学「くるかい」など、様々な人の学びを支える活動にも長く力を注いでいる

 
 
 「若い頃から古本屋巡りが大好きで、本の中から苦難を乗り越えるヒントや、前向きに生きる勇気を得ていました」という賀根村さん。カウンターや小上がりを利用して置かれた書棚に並ぶ本のほとんどは自身が読み込んだもので、自己啓発本や自伝本、心理学などおよそ1000冊。小説などの創作ものは少なく、「歴史上の人物や、国内外で活躍されている著名人など、ノンフィクションの言葉には力があります」と話します。
 
 

およそ1000冊の愛読書がずらり。地域の居場所として着実に利用者が増えており、取材中も常連の女性が読書をしていた

 
 
 「私自身、何度も本に救われてきました。人付き合いが苦手な方や引きこもりの方など、人生につまずいたり、思い悩む方に、これらの本を役立てて欲しい」という思いが図書館開設の原動力になっています。
 和楽な図書館は基本的に無人。本のタイトルと日時を記入して貸出ボックスに入れて借りることができます。返却時に感想を綴るノートも設置されていて、「時には手紙を挟んで返却してくれる方もいるんですよ。本の感想や、ありがとうございました、というお礼の言葉を見つけるととても嬉しくて、ノートをめくるのが楽しみです」と賀根村さん。直接顔を合わせなくても、あたたかなやり取りがここにはあります。
 
 

貸出期間は2〜3週間が目安

 
 
 和楽な図書館では毎月読書会も開催。テーマとなる本や冊子を一冊選び、感想や、関連する自身の体験談などを語り合っていて、参加者の年齢も20代から60代と様々です。
 本を介して、利用者同士がつながる場として、和楽に足を運ぶ人は、着実に増えてきています。
 
 

和楽には多くの自伝本やノンフィクションが顔を揃えている。こちらは賀根村さんのおすすめの3冊

 
 

DATA

和楽な図書館
釧路市愛国東3丁目2-1
開館時間/9:00〜18:00
Tel.070-5611-5081

 

 

すべての子どもに本の喜びを!

ふきのとう子ども図書館

 

桑園博士町に建つふきのとう文庫

 
  
常設の工房でつくる手作りの布の本や拡大写本

 かつて北大の教授たちの多くが暮らしていたという「桑園博士町」。現在はマンションが立ち並ぶこの場所に「ふきのとう子ども図書館」はあります。同施設の歴史は古く、1970年に元岩波書店の編集者だった小林静江さんが、障害のある子どもにも読書を楽しんでもらうことを目的に、江別市の自宅を私設図書館として開放したのが始まり。その後、札幌西区平和に移転を経て、「すべての子どもに本の喜びを!」という小林さんの意思を引き継いだ現・代表理事の髙倉嗣昌さんが私有地の一部を寄付する形でこの場所に移転しました。
 
 

木のぬくもりを感じる館内。勾配屋根が開放感を与えてくれる

 
 
 「布の本は、小林さんが海外で暮らす友人から譲り受けた絵本をヒントに始めたもので、日本ではふきのとう文庫が発祥です」と髙倉さん。
 
 

布の本をつくる2Fの工房。キャビネットには色とりどりのフェルトや使用パーツなどが納められている

 
 
 フェルトで作られた布の本は手触りが心地よく、色彩も鮮やか。想像力を育む文字のない本は、触ってめくって楽しめる仕様です。
 館内の2Fが工房になっていて、布の本や弱視の子どもたちに向けた拡大写本は、ボランティアのみなさんによる手作り。現在、ふきのとう文庫には約100人以上のボランティアが在籍し、拡大写本や布の本の制作、閲覧・貸出業務などそれぞれ担当を持ち、運営しています。
 
 

「布の本は私たちふきのとう文庫にとって原点です」と代表理事の髙倉さん

 
 
 「常設の工房はふきのとう文庫にとっての要です。緊急事態宣言中の閉館期間も、ボランティアのみなさんによって製作活動は続いていました」と髙倉さん。
 
 

壁に張り出した布の本

 
 
 感染症という、これまで経験したことのない問題が立ちはだかり、以前はずらりと並んでいた布の本を閲覧棚から撤去。「子どもたちと布の本の触れ合いを無くしてはいけないですから」と、ページをばらして壁に貼り出すなど、感染防止対策の徹底をしながら試行錯誤を続けています。
 
 

拡大写本は文字を大きくして手作業で製本する。一文字が大きくなるのでレイアウト変更もし、拡大することで1冊の本が複数冊に渡ることも。絵本などは、モノクロで拡大コピーをしてから、改めてクーピーペンシルなどを使って色を塗っている

 
 
 「緊急事態宣言が開け、久しぶりに開館したところ70人近い親子が足を運んでくれました。ボランティアのみなさんの熱意と、楽しみにしている子どもたちの存在が力になります」と笑顔で話す髙倉さん。いくつもの善意と、子どもたちの笑顔に支えられ、子ども図書館は続いています。
 
 

ふきのとう文庫を支えるボランティアのみなさん

 
 

DATA

ふきのとう子ども図書館
札幌市中央区北6条西12丁目8-3
Tel.011-222-4839
http://fukinotou.org/

札幌

食に関する文献を約8000冊展示!

六花文庫

 菓子メーカー「六花亭」は「お菓子は文化のバロメーター」という思いを原点に、さまざまな文化活動に取り組んでいます。そのひとつが、真駒内店を私設図書館として活用した「六花文庫」です。ツタにおおわれた外観が印象的で、冬になると室内に据えた暖炉に火が灯る居心地の良い空間。レシピや小説、絵本など館内に揃うのはすべて食に関わる本。貸出はしていませんが、自由に閲覧が可能です。
 また、アート作品発表の場を提供することを目的に2007年から企画している公募展「六花ファイル」の作品も鑑賞できます。
 

約8000冊の書籍を保管する館内。高窓からの自然光が心地良い

 

雪が降ると火が灯る大きな暖炉。その周りを一人がけのゆったりとした椅子が並ぶ

 

「六花ファイル」には1つの箱に1人の作家の作品が収められている

 

DATA

六花文庫
札幌市南区真駒内上町3丁目1-3
Tel.011-588-6666
http://www.oda-kikin.com/rokka.html

苫小牧

自宅を開放し、37年以上続く私設図書館

ピッピ文庫

 「子どもたちが本に出会える場所を身近につくりたい」という思いから、個人所蔵の図書を活用して自宅の一部を開放した家庭文庫です。
 1984年開設以来、大切な読書環境の提供だけではなく、地域の子どもと母親にとっての居場所や交流の場としても活用されるなど、長く親しまれています。来訪した子どもに読み聞かせたり、親子で遊ぶなどピッピ文庫はいつもアットホームな雰囲気です。
 文庫内でのイベントは行っていませんが、教育委員会のアーティストバンクに登録しているので、幼稚園や小学校、高齢者施設などから依頼があれば、読み聞かせに出かけます。
 

奥は書庫になっていて、大量の本が収まっている

 

本は擦り切れるほど読まれてこそ価値がある。長く読み継がれてきた本がずらり

 

子どもたちのおもちゃも完備

 

本との出会いは子どもたちにとっての宝もの

 

読書スペースは一段高い小上がりになっている。天窓からの光が心地良い

 

DATA

ピッピ文庫
苫小牧市柏木町1丁目13-5
Tel.0144-74-2235
開館時間/土曜10:00~17:00
アクセス/苫小牧市営バス苫信金川沿支店前より徒歩5分

美深

ハルキストの聖地、美深町の駅に誕生

JR美深駅「村上春樹文庫」

 JR美深駅内「BOOKS&GALLERY」と書かれた小さな部屋の中に、著書約100冊を並べた「村上春樹文庫」があります。
 美深町は、村上春樹さん初期の長編小説「羊をめぐる冒険」の舞台である架空の町「十二滝町」のモデルではないか?と噂されている土地。毎年多くの村上春樹ファンが、聖地巡礼を兼ねてこの町を訪れます。
 この盛り上がりを受けて、開設されたのがこの村上春樹文庫です。
 ギャラリーでは、村上春樹さんの小説のロケーションではないかと思われるスポットの写真も多数展示。美しい美深町の写真とともに、村上春樹の世界を存分に味わえる至福の空間です。
 

BOOKS&GALLERYと書かれた入り口。この先に村上春樹文庫はある

 

写真や本が並ぶ室内

 

美深町が舞台ではないかと噂される「羊をめぐる冒険」。美深町と思われる場面に付箋が貼られている

 

もちろん他の村上春樹作品も多数並ぶ

 

DATA

JR美深駅「村上春樹文庫」
美深町字開運町無番地交通ターミナル内
Tel.01656-9-2470
開館時間/9:00~16:30
アクセス/JR美深駅内

小樽

家でも学校でもない第3の居場所

サカノマチ学舎

 JR小樽駅近くの坂の上に建つトコトコ荘と名付けられた一軒家。この古い家屋を利用して開かれたのが「サカノマチ学舎」です。
 サカノマチ学舎は、中高生を対象にしたゆるやかな学び舎で、施設内には小説や漫画など約1000冊が並び、ノートパソコンやプロジェクターなども完備。私設図書館とフリーペースの機能を兼ね備えた場所となっています。
 勉強や読書、ものづくりをしたり、おしゃべりを楽しんだりと、使い方は自由。不登校や通信教育などで学校に通っていない子どもたちの居場所や、放課後の寄り道先など、家でもない、学校でもない、第3の居場所として開放しています。
 2022年にはモーニング中心の「サカノマチ喫茶室」の開業も予定。朝の憩いのひと時の提供を目指し、準備に取り掛かっています。
 

居心地の良い畳の室内

 

自分たちで少しずつ手を加えながら環境を整えている

 

サカノマチ学舎の本の多くは、寄付によるもの

 

船見坂を登った先に見える青い家が目印

 

DATA

サカノマチ学舎
小樽市富岡2丁目4-4 トコトコ荘
Tel.0134-55-7409
https://sakanomachigakusya.jimdofree.com/
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