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こだまみわこ/平取町

版画家

2024.03.21 UPDATE
作る人

 
 日高山脈を源とする沙流(さる)川の清らかな流れ、馬がのびのびと駆け回る牧場。雄大な自然に囲まれた平取町に、版画家・こだまみわこさんが移住したのは30年以上前のこと。廃校になった旧川向小学校(沙流川アート館)にアトリエを構え、敷地内の元教員住宅で暮らしながら創作を続けています。
 幼い頃から絵を描くことが好きだったというこだまさん。大学では油彩を学び、卒業後は札幌の美術予備校で講師を務めながら描き続けていましたが、それは「何を描きたいのかがわからず、もやもやとした気持ちでキャンバスに向かっていました」という葛藤の日々でもありました。

こだまさんの創作の場「沙流川アート館」。1991年に廃校になった平取町立川向小学校の校舎を改修したものです。

「沙流川アート館」では現在、こだまさんを含めて3名のアーティストがアトリエとして利用しています。

 「そうやって行き詰まりを感じながら過ごしていたある日、旅行で日高地方を訪れ、廃校活用の話を偶然耳にしました。平取町には縁もゆかりもなかったけれど、どこでもいいからゼロからスタートしたいと考えてすぐに移住を決意。感覚的には世捨て人に近かったかも(笑)。当時私は20代。しがらみのない場所で絵を描きたい、という思いひとつでこの町にやってきました」

 しかし、「新天地でも相変わらず描きたいものがわからず、広いアトリエの隅っこで、描いては上から塗りつぶすを繰り返し、小さなキャンバスを灰色にしていました」というこだまさん。転機が訪れたのは30代に入ってから。日高町に暮らす知人に誘われて、版画作品の制作を始めました。「油彩は後からいくらでも描き直せるけれど、版画は彫ってしまうと後戻りはできません。結論を出すことができる版画は私にぴったりだったのかもしれません」

アトリエに飾られた大作「川のうちそと、川をめぐる」(木版画・2005年制作)。三日三晩、彫りと刷りに費やした本作は、「人間やればできるんだ!を改めて実感することができた作品です」とこだまさん

 旅行に出かける時の弾んだ気持ち、金魚が死んでしまった時の悲しみ、玄関先に蛇が顔を出した時の驚き。「作品のために題材を探すのではなく、暮らしの中で感じること、目に入るものを作品にするようになりました」
 沙流川河口から宿主別(しゅくしゅべつ)川の源流をめざす同好会に誘われて、川歩きに挑戦した際には、その体験や感動を3枚のベニヤ板を貼り合わせた大型の版画で表現。「私にとって初めての大きな作品。自分を鼓舞するためにアトリエに貼っています」と笑顔で話します。

沙流川アート館内の一室にあるギャラリーには、こだまさんの作品を展示中。さまざまな企画展も行われます。

 

2022年から始めた大人気のカレンダー。動物や植物など身近な存在をモチーフに、数字や文字も手彫り・手刷りで仕上げています。

 版画制作のみならず、沙流川アート館内で絵画教室も開いているこだまさん。
 「油絵も生徒さんたちと一緒に描いています。ずっと悩み続けているけれど、油絵が好きだからやめることはないです」。悩みも喜びもひっくるめて、こだまさんは創作に向き合い続けています。

Profile
 

こだまみわこ

1963年北見市生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。1991年平取町に移住。2015年第21回鹿沼市立川上澄生美術館木版画大賞受賞。
●沙流川アート館旧川向小学校を改修し、アトリエや絵画教室として活用している。
TEL:01457-2-2127

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