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特集

『ケダモノ』札幌公演

赤堀雅秋 interview

2022.03.30 UPDATE

生きづらさを抱え、もがきながら生きる人間たちを生々しく描き、社会の歪みを鋭く問う作品で高く評価されている赤堀雅秋さん。その新作『ケダモノ』で、初の北海道公演を果たすことになりました。つくり手としての原点から、ものづくりに懸ける想い、北海道の思い出まで幅広いお話を伺いました。
(PHOTO/江森康之 TEXT/尾上そら)


 

創作に目を開かせてくれた富良野在住の巨匠との出会い

 
ー赤堀さんが演劇に目覚めた契機に富良野市在住で脚本家・劇作家・演出家の倉本聰さんの存在があるとか。

 もう30年近く前、大学を中退して就職する気もなく、アメリカのサンノゼに3か月ほど滞在したことがあるんです。でも2ヶ月目くらいで猛烈なホームシックに襲われ、日本語にも飢え、サンフランシスコの紀伊國屋書店へ行って本を買い込んだ。当時、恥ずかしい話ですが、漠然と思い描いていた展望が役者や芸人になること。戯曲や脚本のことが全く分からず、「シナリオ入門」的な本と「倉本聰の世界」という雑誌が目に入り、手に取りました。

ー倉本作品は知っていたと。

 『北の国から』を見たことがあったので。その雑誌の巻末に当時未発表だった『學』(仲代達矢、高杉真宙主演。2012年にWOWOWで制作・放映)という作品が掲載されていて、シナリオを初めて読んだのに最後は感動で号泣してしまった。
 重い罪を犯し生きる気力を失った少年が、カナダで暮らす祖父と大自然の中で再生していく物語ですが、文中「……」や「――」で示された間や呼吸が説明されずとも感じられ、登場人物たちのいる「絵」が脳内に浮かび上がってくる。繰り返し読んだ、劇作家未満の僕にとっての教科書です。

 

 

ーそこで劇作・演出・俳優を兼ねようと決めた、と?

 その時、チャップリンの伝記も買って。彼は脚本・監督・主演に加え音楽まで手掛ける。そのカッコよさに単純に憧れた、ダメな若者です(笑)。だから、ここまで続けて来られたのは奇跡のよう。苦しいこともありますが、つくる喜びを感じ、創作を面白がり続けられる自分がいる。戯曲の残り15ページくらいを一気に書き上げる、あの快感は他に代えがたいものです。
 それに、そもそも不完全な人間なので作家・演出家・俳優の三役の間で、やっとバランスが取れる。魅力的な俳優さんたちには、俳優としてぶつかりたいですし。

ー『ケダモノ』には赤堀さん含む俳優の方々との話し合いから生まれた、ユニット的側面もあるそうですね。

 始まりは2016年に上演した『同じ夢』で、普段は呑み仲間の大森南朋さん、田中哲司さんと、共演してみたい俳優さんや、やりたい芝居の話をしていて。企画が進み始めた時、哲司さんに「赤堀君も一緒に出ようよ」とそそのかされた(笑)。そんな酒場話が発端にも関わらず、二作目の『神の子』(19年)の上演ができ、『ケダモノ』はこのチームでの三作目。ただ楽しいだけでなく、南朋さんと哲司さんは、僕の作品を非常に厳しい視線でジャッジしてくれるコワくも有難い存在で、このチームは自分にとって創作上の「ホーム」ですね。

 

ユニット第1作目「同じ夢」(2016) 撮影:細野晋司
 

 

信頼できる仲間がいる創作上の「ホーム」がある心強さ

 
ー作品の内容も伺えますか。

 残念ながら台本はまだ1ページもありません(苦笑)。具体的な設定もお話しできるほど固められていなくて。
 ただここ数年、作品を一つ終えるたび、いつも「次の、違う段階へ行かねば」と感じているんです。年齢と経験を重ね、それなりの技量はあるというささやかな自負。そんなものに安住することなく、チャレンジし続けるための衝動、その象徴がタイトルの『ケダモノ』という言葉かも知れません。人間も所詮は動物、そんな、ありきたりだけれど根源的な視点で物語を紡ぎたい。すべての予定調和をぶち壊したいという乱暴な気分でもありますね。

ー北海道で赤堀さんの作品が上演されるのは初です。

 2019年に札幌で戯曲講座をさせていただいたことがあるのですが、ツアーで伺うのは初めてです。地域では他に、広島で現地の演劇人たちと1カ月近く滞在しながら創作・公演をしたことがありますが、各地にそれぞれの演劇シーンや観客層があり、そこに僕自身が胸を張って「これが面白い、自分の考えるイイ芝居」を届けたいと常々思っているんです。今回の札幌公演はその第一歩。この作品に出会っていただくことが創る人も観る人も含め、札幌の演劇環境にとっての刺激になるなら嬉しい限りです。

 

ユニット第2作目「神の子」(2019) 撮影:引地信彦
 

 

窮地にある今だからこそ「変わらぬ想い」を作品に投影する

 
ーコロナ禍、演劇ファンにとっても新たな創り手や作品との出会いは貴重です。

 この2年余、日本に限らず世界中のあらゆることが停滞し、窮地に陥っている。数多の物事から、自分で選び取ったもので暮らしを構築するのは僕らにとっての当たり前の権利なのに、その多くを奪われたこの期間。でもだからこそ自分は、この間に「人としてどういう姿勢で居るか、生きるか」を考えることができた。頑ななまでに「流されるものか、変わってたまるか!」と思い続けた結果、自分の中で濃く強くなった演劇や創作への想いが、『ケダモノ』に反映される気がします。

ー演劇や仕事以外の「北海道の思い出」があれば聞かせてください。

 20年くらい前、奥さんがいた時期がありまして。その時、富良野へ旅行しました。ラベンダーの咲く季節に、『北の国から』の劇伴のCDを掛けながら富良野をドライブする。奥さんは『北の国から』に何も思い入れがないのに僕だけ陶酔していたという(笑)。その旅中、地元の定食屋さんで食べたホッケの旨さは衝撃的で、鮮烈に記憶に残っています。食材王国ですから、北海道の美味しいものは今回も是非いただきたいです。

ー最後に、お客様にメッセージをお願いします。

 旅公演をする際、東京で創り・公演したサイズよりも大きなホールで上演しなければならないことがままあります。でも、作品本来の手触りができるだけ変わらぬよう届けたいという想いが切実にあり、今回はそのことを準備段階から入念に話し合って臨む初めての作品です。その志をお客様に体感・共有していただき、今回は札幌と大阪二都市のツアーですが、この先もっと多くの町と劇場を、国内外問わずに回れるような体制を整えていきたい。そのためにも札幌公演は重要で、一人でも多くの方にご覧いただけたら、と。ご来場を心よりお待ちしています。


赤堀 雅秋
(あかほり・まさあき)

1971年8月3日生まれ、千葉県出身。劇作家、脚本家、演出家、俳優。1996年 SHAMPOO HAT(現THE SHAMPOO HAT)を旗揚げ。作・演出・俳優の三役を担う。 人間の機微を丁寧に紡ぎ、市井の人々を描くその独特な世界観は赤堀ワールドと称され、多くの支持を集めている。第57回岸田國士戯曲賞を「一丁目ぞめき」(上演台本)にて受賞。初監督作品「その夜の侍」(12年)では同年の新藤兼人賞金賞、ヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。モントリオール世界映画祭(ファースト・フィルム・ワールドコンペティション部門)、ロンドン映画祭(ファースト・フィーチャー・コンペティション部門)、台北金馬奨映画祭などに正式出品され、各方面で話題になり、16年監督第2作目「葛城事件」では主演の三浦友和を数々の映画賞へと導いた。

 

 

公演ホームページ
https://www.comrade.jpn.com/kedamono/

 
 
 

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