「アート体感教室」で講師として
10年以上に渡り道内各地を飛び回った近藤良平さん。
出会いと自身の気づきを振り返ります。
ダンサーとしての僕の活動は大きく分けて二つの側面があります。一つは舞台で作品を発表する「表現者としてのダンス」、もう一つは「コミュニケーションツールとしてのワークショップ」です。
僕が後者の活動として、北海道文化財団のアート体感教室で奥尻町を訪れたのは2008年のこと。初めて足を踏み入れたその町は、米や畑があり、牛が行き交い、豊かなものが全て揃っている完璧な土地でした。その居心地良さと豊かな自然、町民の皆さんや子どもたちとの出会いで、奥尻町が一気に好きになりました。
当時、ストリート系ダンスを筆頭にダンスそのものの認知は広がりつつありましたが、コンテンポラリーダンスはまだまだマイナーな分野。未知の土地で、未知のコンテンポラリーダンスをある種「開拓」していくような「始まり」を感じ、僕自身もワクワクしていたと思います。
奥尻町では2日間に渡りワークショップを実施。
3日目はミニ発表会として映像に残し、みんなで鑑賞しました。自分たちが動いている姿を見る子どもの目は輝いていました。
気軽に芸術に触れられない土地に赴き、表現方法の豊かさを伝えることに意義を感じる一方で、町を歩き人と交流を重ねると、僕が知らなかっただけで、土地それぞれの文化が根付いていることを知りました。そこに無理やり東京の文化をねじ込むのではなく、共存することの大切さを、僕自身も気づくことができました。
奥尻町を皮切りに、新冠町、中標津町、浦河町など、10年以上に渡り、道内各地を巡りました。自然の中で育つ子どもたちが、必ずしもみんなのびのびと過ごしているわけではありません。人見知りだったり、引きこもりがちな子も当然います。都会にいると「大自然にいれば大丈夫」と思いがちですが、実際はそう単純ではありません。僕が伝えたかったことは、コンテンポラリーダンスという自由な表現方法があるということ。「こんな身体の動かし方があるんだよ」「身体を使って真剣にふざけてみよう」と、身体を動かす楽しさや表現の多様さを伝えていきました。
奥尻町に行った当時、僕はまだ30代でしたが、今はもう50代。この年代の大人がエネルギーを発散しながら真剣にふざけている姿を見せることで、「こんな生き方もあるんだ」と子ども心に思ってくれるのではないでしょうか。コンドルズも来年で30周年。まだまだ学ランを着てダンスをしているわけですから(笑)。継続してきたからこそ、その時、その時の自分自身にできることの変化も見えてきました。
2023年に、幕別町で13年ぶりにコンドルズの公演を実施しました。そこでとても嬉しいことがあって。13年前の幕別公演をお父さんと一緒に観たという当時小学生だった女の子が観に来てくれたんです。お父さんは仕事が忙しくて来られなかったそうで、一人で会場に来てくれて。長く続けていくと、こんな素敵な再会があるんだということもあらためて実感することができました。
道内各地で蒔いたダンスの種のようなものが、今はどう育っているのか。ダンサーになったり、この業界に入るということに直結しなくても、彼らの人生にささやかでも影響を与えていたら嬉しいです。北海道文化財団とともに、また何か楽しいことをしてみたいと思っています。
コンドルズ主宰。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第67回横浜文化賞を受賞。NHK連続テレビ小説『てっぱん』オープニング、NHK大河ドラマ『いだてん』ダンス指導など、映画、TV、CMで多数の振付を手がける。2022年4月より彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任。