小さくて精巧な壺や茶器や花器――。指先に乗るほどのサイズで、緻密に仕上げられた陶器を生み出すのは、ミニチュア陶芸家・山野照人さん。旭川の住宅街に構えた工房で、小さな器を一つひとつ丁寧に仕上げています。
大学時代から油彩を学び、その後も凧制作、鉄道模型やステンドグラスなど創作に勤しんでいた山野さんが陶芸に出会ったのは50歳の時。特別支援学校で美術教師を務める傍ら、「子どもたちの良い刺激になるのでは」と思い、1年間と期限を定め、陶芸教室に通いはじめました。
自宅の敷地内に工房を構えています。
工房内にはこれまで手がけたミニチュア陶器や、
資料がずらりと並んでいます。
土に触れるうちに陶芸の奥深さに魅了されたという山野さん。週6回も教室に通い詰め、創作に励むようになりました。転機が訪れたのは、陶芸をはじめて3年目のこと。陶芸教室の生徒が手がけた小さな焼き物に心を奪われ、「孫のおもちゃに良い」とミニチュア陶芸に挑戦。取り組む人がほとんどいなかった当時、山野さんは持ち前の探究心から手探りで技法を模索しました。
ミニチュア陶芸に取り組んだ当初、もっとも苦労したという切り離し作業は、バターナイフを使って行います。
専用の道具もなかったため、指の代わりとなる成形道具は堅い木材を削り出して自作。口縁をなめすには紅筆を使いました。とくに苦労したのは、数挽きのあと成形した作品を粘土の塊から切り離す工程。崩れやすい小さな形をどう保つか、試行錯誤の末に、バターナイフを用いることで繊細な作業を乗り越えました。
指の代わりとなる自作の成形道具。作品やサイズによって、使い分けています。
ミニチュア陶芸との出会いから3年後、山野さんは国内外の作家が参加する「ジャパンギルド・ミニチュアショー」に初出展。10分の1サイズの壺を制作しましたが、「規定は12分の1で、評価は厳しく、ミニチュアの世界のシビアさを痛感しました」と振り返ります。
悔しさをバネに、「もっと小さく、もっと美しく」と技術を磨き続け、翌年に正規会員に登録。教職を退いた後も創作への追求は止まることなく、2010年には、自宅敷地内に「工房てると」を建てました。
山野さん渾身の作品の一つである常滑焼の急須。
常滑の朱泥土は、他の作品より低温で焼成しなければ変形してしまうため、他の作品と同時に焼くことができません。
そのため、数年に一度しか焼かないそうです。
美しいミニチュア陶芸の数々。先日はミニチュア陶芸を習いに道外から来た人もいたそう。
鉄道模型に没頭していた時代に培った彫金の技術を活かしたり、ステンドグラスを用いたり。小さな作品に、自身の技術を惜しみなく注ぎ込んでいます。時にはドールハウス教室から140点を超える注文が入るなど、忙しい毎日を送る山野さん。「ミニチュア仲間も増えて、自分の世界が広がりました」と、指先に収まるほどの小さな器が、山野さんの人生を思いがけず豊かに、大きく動かしてくれました。

旭川市生まれ。油彩や凧制作、鉄道模型づくりなどを経て、特別支援学校の教師時代にミニチュア陶芸に出会う。2004年ジャパンギルド(日本ミニチュア作家協会)会員、2021年日本ドールハウス協会会員に登録。
●工房てると
旭川市川端町4条7丁目3-23
https://note.com/kbteruto