北のとびら on WEB

30周年特別号

♯04 MONO代表 劇作家・演出家・脚本家
土田 英生(つちだ・ひでお)

2025.11.20 UPDATE


次世代を担う才能を発掘する「北海道戯曲賞」の魅力と価値とは。
第1回から6年間に渡り審査員を務めた土田英生さんが語ります。

撮影協力/京都芸術センター

 「北海道で新たな戯曲賞を立ち上げるので、協力してほしい」。北海道文化財団さんより相談を受けた僕は、2014年度の第1回から2019年度の第6回まで、北海道戯曲賞の審査員を務めました。
 この戯曲賞の最大の魅力は、「北海道」を冠しながらも、地域を限定せず全国から作品を募集していること。芸術は排他的であってはならず、自分の地域だけで完結させると広がりがなくなってしまいます。実際、第1回大賞作品『悪い天気』の藤原達郎さん(飛ぶ劇場)も福岡の劇作家。道内作家も応募する中で、北海道枠を設けずに公平に審査する開かれた姿勢は、道内作家にとって良い刺激になっていると感じています。

 第1回はスムーズに大賞が決まったものの、第2回から2年連続で大賞は「該当なし」となりました。立ち上げたばかりの賞ですから、関係者の皆さんの気持ちも痛いほどわかります。それでもこの結論に至ったのは、僕だけでなく、審査員全員が「北海道戯曲賞のレベルを下げたくない」という覚悟を持っていたからです。単なる相対評価ではなく、本当に優れた作品にこそ賞を与えるべきだと思ったのです。この判断は、賞の価値を守るために不可欠でした。
 劇作家は「売れたいという俗っぽい野心」と、「純粋に良い作品をつくりたいという気持ち」を行き来しながら成長するものだと考えています。だからこそ、大賞は「商業的にも通用する資質を持つ、うまい作品」に与えるべきだと考えていました。賞を受賞し、そこから売れていくという明確な道筋がなければ、みんな夢を抱きにくくなってしまう。僕はこの賞を、将来的に劇作家という職業で自立し、活躍できる人たちを輩出する場にしたかったのです。

 現在、北海道の劇作家は大賞を受賞していませんが、いつか道内作家が大賞を受賞し、日本の演劇界のメインストリームで活躍するという物語が是非とも生まれてほしい。「北海道にいながらでも成功できる」ということを信じられる物語を、誰かが作る必要があると僕は思っています。
 審査員になる前は、TEAM NACSや斎藤歩さんのことは知っていましたが、北海道の演劇界で活躍する若手の劇作家や劇団については、ほとんど知りませんでした。これはあくまで私の印象ですが、北海道の演劇シーンは昔からジェンダーバランスが比較的良く、女性の作家や俳優も遜色なく活躍できていたように思います。戯曲賞の審査を通して、少しずつ北海道の演劇人やシーンを知ることができたのは、私にとっても大きな収穫でした。

 また、審査員同士の関係も非常に和やかで、なかでも桑原裕子(KAKUTA主宰)さんとは審査を通じて出会って以来、今では親友と呼べるほどの関係になりました。この北海道戯曲賞をきっかけに生まれた人とのつながりも、私にとって大切な財産です。
 大賞作品は現在、札幌で上演しますが、東京や大阪といった主要都市も巡り、そこで評判を得ることができれば、「北海道戯曲賞の大賞作品は面白い」と認知が広がり、賞の価値はさらに高まるでしょう。北海道戯曲賞は審査員として参加していても風通しがよく、審査会も非常に良い雰囲気でした。この戯曲賞がこれからも続いていくためにも、そういった成功の物語や新たな展開が生まれることを期待しています。

Profile
 
土田 英生(つちだ・ひでお)

愛知県出身。1989年に「B級プラクティス」(現MONO)を結成。戯曲『その鉄塔に男たちはいるという』でOMS戯曲賞大賞、文学座公演『崩れた石垣、のぼる鮭たち』で芸術祭賞優秀賞を受賞。映画『約三十の嘘』、ドラマ『斉藤さん』など脚本も多数。監督・脚本を務めた映画『それぞれ、たまゆら』が2020年に公開された。

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