北のとびら on WEB

30周年特別号

♯03 株式会社カンディハウス 代表取締役会長
藤田 哲也(ふじた・てつや)

2025.11.20 UPDATE


未来のものづくりを支える「人づくり一本木基金」。
設立以来、運営委員を担う藤田哲也さんに話を伺いました。

 2025年、「人づくり一本木基金」は設立から10年を迎えました。
 この基金は、長年カンディハウスの家具を手がけてくださったデザイナー、スチウレ・エング氏の「もう十分デザインロイヤリティをいただいた。これからは若い人たちのために使ってほしい」という一言から始まりました。エング氏の温かい心に感銘を受けたカンディハウス創業者の長原實は、この寄附を若い才能の育成に活かそうと考えました。しかし、会社内だけで運営するのは難しいと感じ、北海道文化財団理事長の磯田さんに相談。長原自らの私財も投じ、2015年に基金を設立しました。

 長原は、経営者であると同時に、一人の優れた技術者でもありました。若い頃に西ドイツへ家具製作の研修に行った経験から、若者の育成こそが未来を拓くという強い信念を抱いていました。カンディハウス創業以来、若い技術者たちの育成に尽力してきた長原にとって、この基金は長年の思いが形になったものです。基金設立と同じ年に長原は生涯を閉じましたが、病床で「基金ができて嬉しい」と語った姿は今も鮮明に心に残っています。
 その志を受け継ぎ、私はカンディハウス代表取締役会長として基金の運営委員を務めています。毎年届く奨学金や海外研修の応募書類には、経済的な苦境を乗り越え、ものづくりに情熱を燃やす若者たちの切実な思いが綴られており、すべてを応援したい気持ちになります。

 「人づくり一本木基金」の奨学金は返済不要の給付型です。これにより、アルバイトに費やしていた時間を学業や創作に充てることができたという喜びの声を聞くたびに、この活動に携われることへの感謝がこみ上げてきます。支援を受けた若者たちは現在、技術者として道内外で活躍し、中にはカンディハウスに入社した者もいます。これまでに5名が海外研修でスウェーデン等に渡り、大きく成長して戻ってきました。
 素晴らしいデザインが生み出す製品の収益が次の世代の奨学金となり、若い才能を育んでいく。エング氏から始まったこの美しい循環は、今も続いています。設立当初は手探りでしたが、今では多くの高校や大学、専門学校で紹介され、応募数も増えました。北海道文化財団の協力もあり、安定した運営を続けています。

 長原が私たちに託したのは、旭川を「ものづくり王国」にするという願いでした。「人づくり一本木基金」は、その実現に欠かせない要素のひとつです。さらに、「国際家具デザインコンペティション旭川(IFDA)」や、椅子研究家・織田憲嗣氏が半世紀以上にわたり世界各地で収集・研究してきた家具と日用品を収蔵する「織田コレクション」、「旭川市立ものづくり大学の実現」など、長原が手がけた数々の事業を有機的に結びつけながら、いつか旭川を真のものづくり王国へと育てていってほしい――。
 その王国がいつ、どこで形を成すのかは、まだ誰にもわかりません。
 それでも、長原の願いを受け止め、その志を継いでいくことこそ、自身に与えられた役割だと感じています。
 「人づくり一本木基金」として今後は、若者を育成する企業や団体への支援にも力を入れていきたいと考えています。こうした環境を支え、整えることも、基金の重要な役割であると考えています。

Profile
 
藤田 哲也(ふじた・てつや)

1982年カンディハウス(旧・インテリアセンター)に入社後、設計・営業を経験。1998年には、グループ会社のカンディハウス横浜を設立した。専務取締役を経て、2013年より代表取締役社長、現在は代表取締役会長。2021年からは旭川家具工業協同組合理事長も務めるなど、多岐にわたる要職を歴任している。

トップページ
北のとびら on WEB
COPYRIGHT 2021.HOKKAIDO ARTIST FOUNDATION., ALL RIGHTS RESERVED.