絵を描いた最初の記憶は、4〜5歳の頃。当時流行していたビックリマンシールのお気に入りのキャラクターを必死に模写し、母に褒められたことが嬉しかったのを覚えています。私にとって絵は生活に欠かせないもので、「絵を描くことを好きであり続けたい」と思っていました。

『はなめがね』
大学進学の際は、美術系に進み絵画に真剣に取り組んでしまうことで、描くことが嫌いになるのではないか、絵描きになると絵を描くことを憎むことにも繋がるのではないかという危惧がありました。結局私は、卒業後の就職も考えて、デザイン学科のある道都大学への進学を決意。ところが、入学してから1〜2年すると、「本気で絵を描きたい」という気持ちが抑えられなくなり、油彩のゼミを選択することに。しかし、自分の絵に魅力を見出せず、彫刻へ転向するも、そこでも納得することはできませんでした。
転機となったのは、大学4年の卒業間際。友人の勧めで初めてシルクスクリーンを体験しました。思い通りには刷れず散々でしたが、でき上がった作品にはこれまでにない魅力を感じたのです。うまく刷れなかった悔しさと、これまでとは全く違う方法での画面づくりに魅了された私は、卒業後も1年間大学に残り、シルクスクリーン制作に没頭。私は再び、絵を描く喜びを取り戻すことができました。

『やまやま』
その後は、さらなる可能性を求めて東京造形大学大学院へ進学。第3回秀桜基金留学賞を受けてドイツにも留学し、海外に身を置くことで、日本の良さを見過ごしていたことに気づき、自分の中にある日本的な感性を意識できるようになりました。
シルクスクリーンの魅力は、紙や布だけでなく、陶器やガラスなど様々なものに刷れる自由さにあると思います。版画の歴史の中ではまだ100年ほどの新しい技法ですが、印刷技術として今も使われ続けているため、新しいインクや道具が常に開発されていて、可能性が広がり続けています。私は透明インクに水彩絵の具を混ぜて色作りをすることが多く、あえて薄めに調合し、刷る回数で彩度を調整しています。

『おふたりやま』
作品づくりのインスピレーションを得るのは普段の生活の中で、デジャブのように、昔の記憶と重なる場面に出会った時。ちょっとしたポーズや仕草だったり、言葉だったり、テレビの一場面だったり、詩や本を読んだ時だったりと様々です。最近は、もっぱら1歳の娘からインスピレーションを得ています。
今回の個展『おふたりやま』のテーマは記憶の移ろい。約7年間で制作したお気に入りや思い入れのある版画作品やドローイングを約20点展示しています。ここ数年の作品が一同に並ぶことで、自身の記憶の変遷を辿るような展示となりました。見てくれた方にも、大切な記憶を憶うきっかけとなれば嬉しいです。
今後は自身の作品制作に加えて、札幌で版画の普及活動をしていきたいと考えています。まだまだ構想段階ですが、札幌に版画制作や版画を学べる場所を作ることや、札幌の他分野で活躍するアーティストと版画家が積極的に関わりを持てる企画などを考えていきたいと思っています。

『かしこまる』
Profile
風間 雄飛
1982年上川郡東川町生まれ、札幌在住。 「うつろう記憶」をテーマに、主に版画制作を行う。移ろい続け、曖昧で不確かになり境界を失っていく儚い記憶の姿を、和紙の表裏両面にシルクスクリーンで刷り重ねて表現する。札幌を中心に国内外で活動を行う。
●Instagrtam
@yuhi.kazama
北海道文化財団アートスペース企画展vol.61 風間雄飛 個展『おふたりやま』
2025.8.5~2025.10.18 9:00~17:00
※土日祝年末年始休館
※ただし最終日の10/18(土)は開館 ※都合により臨時休館する場合があります。
場所/札幌市中央区大通西5丁目11大五ビル3F
問い合わせ/011-272-0501