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水上明/妹背牛町
「わかち愛劇団」代表

妹背牛町「わかち愛劇団」代表

2024.07.26 UPDATE
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 北海道で3番目に小さな町・妹背牛町では毎年、町内外から多くの観客が訪れる人気の町民劇が開催されています。「休演はコロナ禍だった2020年の一度きり。昨年は10回目の節目を迎えました」と話すのは「わかち愛劇団」の代表・水上明さん。認知症をテーマにしたオリジナルの介護劇を公演する町民劇団で、水上さん自身も俳優として舞台に立ち続けています。

舞台に立つ水上さん(左)と、認知症地域支援推進員・金子智津子さん。水上さんは認知症患者の役を任されることが多いそう。(写真:提供)

 水上さんが演劇に出会ったのは、妹背牛小学校の教員を定年退職した後のこと。「教員時代の元同僚で、ふかがわ市民劇団の代表・渡辺貞之さんに誘われて初めて舞台に立ちました。自分とは違う人間を演じることは想像以上の楽しさ。茶髪のカツラでアパレル会社の専務を演じた際は、若者気分になって、そのまま外に出かけたいくらいに気持ちが弾みました。演じることは本当に面白いものです」と笑顔で語ります。
 認知症はごく身近な病気。高齢化が進む妹背牛町にとってもそれは例外ではなく、「認知症の理解を深めたい」と考えた当時の健康福祉課の主幹・河野和浩さんが、介護相談員をしていた水上さんに相談したのが、劇団立ち上げのきっかけです。

河野さんは現在、妹背牛商工会の事務局長。「わかち愛劇団」の窓口も務めています。

河野さんは「わかち愛劇団」の裏方として日々奔走しつつ、脚本のセリフを全て覚えて、不測の事態に備えています。「主演者が体調を崩した際には、河野さんが代役として舞台に立ちました。立派でしたよ!」と、水野さんの言葉に河野さんは照れくさそうに笑います。

 河野さんと水上さんは、認知症と介護に関心をもってもらうための手段に演劇が有効ではないかと考え、福祉関係者とともに10分程度の寸劇を披露。「これが思いのほか好評で、2013年には渡辺さんに脚本・演出を依頼して初公演を行ったところ大盛況。初舞台を踏んだ出演者たちも継続に意欲的で、翌年も公演することになりました」と、出演者や観客の熱意と期待に背中を押されて2015年、正式に劇団を結成しました。

水上さんは「NPO法人わかち愛もせうし」の理事長。元農協店舗を活用した異世代交流スペース「わかち愛もせうしひろば」で、様々な健康・福祉プログラムや飲食の場を提供するなど、福祉のまちづくりを目標に精力的に活動しています。

取材・撮影も「わかち愛もせうしひろば」で行いました。「わかち愛もせうしひろば」は町民にとって大切な居場所の一つ。脳トレやふまねっと運動、いきいき百歳体操など、高齢者の健康寿命を延ばすことを目的にした様々なプログラムも展開中。わかち愛食堂では週替わりでお弁当を提供していて、水上さんの奥さんも厨房に立つメンバーの一人です。

 2017年には深川市での遠征公演も実現。「数年続けられれば良いと考えていましたが、毎年楽しみにしていると声をかけられ、コロナ禍を乗り越えて10年以上続く劇団に成長しました」と水上さんは話します。現在、団員は演者・スタッフを含めて約30名。毎年8月に渡辺さんが脚本を上げ、2ヶ月に渡って練習を重ねます。「子どもからお年寄りまでの団員で構成されていて、観客も幅広い年齢層。演劇を通して認知症や介護の理解を深めつつ、世代間交流も盛んに行っています」と水上さん。
 「上手に演じることに捉われず、熱意を込めて演じる。その熱意は必ず観客の胸を打つ」をモットーに、水上さんは今年も舞台に立ちます。

Profile
 

水上明(みずかみ・あきら)

1935年妹背牛町生まれ。2015年に「わかち愛劇団」を結成し代表に就任。NPO法人わかち愛もせうし理事長として、福祉によるまちづくりにも力を注ぐ。
●わかち愛劇団
今年の公演は2024年11月17日(日)。NPO法人わかち愛もせうし TEL:080-8294-8937

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