版画との出会いは、小学生のころに見たテレビ番組がきっかけでした。木版画を摺り、和紙でブックカバーを作る様子を見て、「自分にもできそう」「やってみたい」と感じたことを今でも鮮明に覚えています。この憧れから、大学進学の際には「版画が学べること」を学校選びの条件にしました。
大学3年生で版画を専攻し、木版の表現に深く魅了されました。在学中に制作した、木版画とシルクスクリーンを併用した『横目に薄闇な記憶』と『横目の白昼』は、私自身の独自性を確立できた手応えを感じた作品です。『横目に薄闇な記憶』は版画の公募展で賞候補に入り、この作品を見た東京のギャラリーからお声がけいただき、『版画展セレクション』に参加する機会を得ました。

『横目の白昼』
私は木版画とシルクスクリーンを併用した作品を多く制作しています。木版画は、ベタ面を摺った際に出る木目や、少しマットな質感、色の混合による複雑な深みなど、私が表現したいことをそのまま形にできる技法です。また、主版として線版をよく取り入れますが、手描きの線よりも、必要な情報だけを際立たせて残せる点も魅力に感じています。
一方、シルクスクリーンは、版画の平面的な表現から脱し、独自の表現を探るために取り入れています。水性インクの他に、熱を加えることで膨らむインクを混ぜて刷り、作品にもこもことした立体的な質感を出しています。

『干し待ち』
作品に生かすために大切にしているのは、日常のふとした瞬間や出来事から得る感覚です。
作品のモチーフとなるのは、普段は意識しないけれど、どこかで見たような景色や日常的な光景。そこに少しだけ想像を絡ませています。『横目に薄闇な記憶』や『横目の白昼』も、「確かにこんな景色がある!」「面白い視点」と好評をいただきました。

『一様に間を見る』
今回の個展『今日の青と次の春』は、季節が冬になることを意識した展示です。
『今日の青』は、冬に向かい陽が落ちるのが早くなることで、外の景色が青や黒に近い藍色といったさまざまな青色に変化していく様子を表しています。少しずつ色味が異なる青の作品を通して、この季節特有の心境を皆様と共有したいという想いから、このタイトルをつけました。

『一休み』
そして『次の春』。寒さが深まると、自然と暖かい春を待ち望むようになります。これから訪れる厳しい寒さを乗り越えるためにも、少し早いですが、作品から来年の春を先取りして感じていただけると嬉しいです。
版画には様々な技法があり、刷る媒体の種類も豊富で、摺り方次第でインクの見え方や発色を大きく変えることができます。今後も版画だからこそできる新たな表現の可能性を探っていきたいと考えています。また、版画作品を日常生活に取り入れられるような親しみのあるものにしたいと常に願っています。これからも「ふとした瞬間」を逃さないよう、積極的に作家活動を続けていくつもりです。

『春のきざし』
【入場無料】
北海道文化財団アートスペース企画展 vol.62
佐藤寧音 個展『今日の青と次の春』
2025.10.22~12.26 9:00~17:00
※土日祝休館 ※ただし11/29(土)は開館 ※都合により臨時休館する場合があります
場所/札幌市中央区大通西5丁目11 大五ビル 3F 問い合わせ/011-272-0501