東大雪の美しい山々と日高山脈に抱かれた新得町。自然が広がるこの土地に工房を構えているのは、木工作家の前島拓也さんです。
2016年に旭川から奥さんの実家がある新得町に移住、築75年の牛舎を自らの手で工房に改築しました。家具づくりで出た端材を玩具に、さらにその端材をカトラリー、そして最後に残ったものは薪ストーブの燃料に。わずかな木端も無駄にせず、使い切ることを大切にしながら、家具や木工品を手掛けています。
「厳しい冬を迎える北海道は、家の中で過ごす時間もおのずと長くなります。机や椅子、フォークやスプーンなど、暮らしにかかわる道具の使い心地や美しさへの思いは、移住してからより一層強くなった気がします」
工房内には製作中のテーブルや機材が並んでいた。もっとも集中して製作できるのは夜。街灯もなく静かで暗い自然に囲まれながら、一人工房で手を動かす。
高校時代に2年間かけて製作したというベンチ。設計図を作らずに、丸太を掘りながら形をつくっていった
熊本県で生まれ育った前島さんは、中学校の美術の授業で初めて木工を体験。ノミを使って木を掘る作業が性に合い、高校時代は2年間かけて丸太を使ったベンチを製作しました。大学で木材造形とプロダクトデザインを学び、より深く家具を学ぼうと考えて卒業後は旭川へ。東海大学芸術工学部に研究生として在籍した後に、旭川市科学館「サイパル」で木工担当として働き始めました。
「科学館では、木工教室用の課題をデザインしていました。自分以外の人が作ることを考えて構造を考えるので、オリジナル作品とは違う面白さがありました」。2014年からは「前島商店」の屋号で、作家活動も開始。新得町に工房を構えるまでの2年間、発想力を磨きながら、作品づくりに向き合い続けました。
北海道に生息する動物13匹が集合したパズル「アニマルパズル チーム北海道」。一枚の板を糸鋸で切り出した。
さくら、エンジュ、白樺、ウォールナットなど、さまざまな樹種を使ったスプーンやフォーク。
「最近は新得町産の木材を積極的に使うようになりました」と前島さん。新得町に移住して7年目を迎え「今年は自分の作品づくりにも力を注ぎたいです」と日々の暮らしや豊かな自然に着想を得ながら、ものづくりの意欲を育てています。
なんと自宅は家をつくってみたいと思っていた奥さんと義父によるセルフビルド。子供たちの成長と共に増築し、現在は3棟の平屋が連結した住まいになっている。
熊本県生まれ。旭川市科学館勤務中の2014年に「前島商店」を立ち上げて、2016年に新得町に移住し、独立。家具からカトラリーなど大小問わずさまざまな作品を手がけている。
●販売サイト
0001.handcrafted.jp