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特集

豊かな自然の中で響く芸術祭
蘭越町秋のアートまつり
~0歳から100歳への道しるべプロジェクトin蘭越~

2022.11.28 UPDATE

鮮やかな舞台美術の中でプロのオペラやダンスを披露し、多くの観客を魅了した「蘭越町秋のアートまつり」 (2022.9.25開催)。蘭越町の子どもたちが文化芸術に触れる機会をつくりたい−−「アートまつり」の実現と成功に向けて尽力したのは、蘭越町の大自然に魅せられた音楽家、芸術家たち。イベントのキーマンである札幌オペラシンガーズ・井出祐子さん、地元農家の田村陽子さん、画家の吉田卓矢さん・彫刻家の吉田みなみさんにお話を伺いました。
PHOTO/表紙・中面:大橋泰之(マカロニ写真事務所)、会場写真:溝口明日花(マカロニ写真事務所)


 

アートまつりは多くの才能を育ててくれた蘭越町への恩返し

interview 札幌オペラシンガーズ 代表 井出祐子
 

 0歳児から大人まで楽しめる本格的なコンサートを続けている演奏家集団「札幌オペラシンガーズ(通称SOS)」。アートまつりでステージ総合プロデュースを務めたSOSの代表・井出祐子さんが、蘭越町と関わりはじめて15年になります。
 「蘭越町には“蘭越パームホール”という素晴らしい音楽ホールがあります。私たちは2007年から毎年、そこでワークショップを続けてきました」と井出さん。豊かな自然に囲まれた環境は音楽活動の大きな原動力で、「蘭越町の新鮮な空気の中だと、深い呼吸ができるのです。歌い手にとって呼吸はとても大切なこと。さらに水も野菜もお米も美味しくて、心身ともにリラックスした非常に良いコンディションの中でトレーニングができました」と語ります。

 

美しい歌声と共に、一緒に踊ったり、歌ったり。会場に集まった子どもも、大人も、それぞれが自由に音楽に心をのせて楽しむ姿は、井出さんの願いが形になった素敵な光景でした。
 

 蘭越町の自然がもたらす力を特に実感したのが、このコロナ禍です。「感染状況を考慮しながら例年通り実施したワークショップで、窮屈な場所から抜け出し、大自然の中で開放感を感じながら伸びやかに練習をした受講生たちの成長は、目覚ましいものがありました」と振り返ります。「おかげで来年、札幌文化芸術劇場hitaruで開催されるオペラ公演に、蘭越町で学んだ若い歌い手たちが多数合格することができました」という井出さん。若き才能を育てた蘭越町に恩返しがしたいという気持ちが募り、企画したのが0歳から100歳への道しるべとして、3世代に渡って楽しめる「アートまつり」です。
 「田村さん、吉田さんご夫妻という素晴らしい人に巡り合ったことで実現することができました」と井出さん。美しい歌声、鮮やかな舞台美術、温かな拍手と感動に包まれたアートまつりには、蘭越町の未来を担う子どもたちに文化芸術の種を蒔きたいという井出さんの願いが込められていました。


井出祐子
(いで・ゆうこ)

1994年北海道唯一のオペラ研修団体「札幌オペラスタジオ」を発足。2015年より演奏家集団「札幌オペラシンガーズ(通称SOS)」として新たに生まれ変わり、代表を務めている。0歳から大人まで楽しめるコンサートなど、オペラをはじめとした音楽を通じて、育児支援や文化芸術の発展を目指した活動を幅広く展開中。
https://www.facebook.com/sapporooperasingers/

 

蘭越町の子どもたちが芸術に触れる選択肢を増やしていきたい

interview FARM TAMU-TAMU 田村陽子

 

 アートまつりの会場内で、来場者に明るく声をかけていたのは、同イベントの実行委員会副委員長・田村陽子さん。結婚を機に蘭越町に移り住み、30年近くになります。田村さんの地域活動の原点はお子さんが小学生の頃、「学校と地域、親たちがひとつになって楽しみながら取り組んだ」というPTA活動の経験です。以降、田植えや稲刈り体験、蘭越町の魅力を盛り込んだ「ご当地かるた」制作など、農業を営む傍ら、地域の子どもたちの経験づくりに力を注いでいます。
 「音楽活動を支えてくれた蘭越町に恩返しがしたい」と、0歳から楽しめるコンサートを企画している人がいると、井出さんを紹介されたのは2年前のこと。「子どもたちが本物の芸術に触れる貴重な機会。なんてありがたく、素敵な話なんだろう!」と共感した田村さんは、井出さんを教育委員会や、町内でアートスクールを開いている吉田さんご夫妻に紹介するなど、つなぎ役となり、実現に向けて奔走しました。
 「季節や時間によって変化する山や海に囲まれて過ごす日々は何年経っても飽きることはありません。井出さんや、国内外で活躍する吉田さんご夫妻など、自然豊かなこの土地は魅力的な人をつなげてくれます。今後も子どもたちが文化芸術に触れる選択肢を増やしていきたいです」と、大盛況の会場内で田村さんは笑顔を輝かせます。


田村陽子
(たむら・ようこ)

大阪出身。結婚を機に蘭越町に移り住み、米、アスパラ、スイートコーン、カボチャ、麦などを作っている。「蘭越町下の句カルタ倶楽部」の代表を務め、町民にしかわからないマニアックなカルタ「ご当地かるた」制作など、子どもたちが町内で文化やアートを楽しむ選択肢を一つでも増やせるように精力的に活動している。
https://www.facebook.com/farmtamutamu/

 

自分達の創作活動に直結する蘭越町の自然の中での暮らし

interview Yoshida Art School
吉田卓矢
吉田みなみ

 

 2019年に蘭越町に移住した画家の吉田卓矢さんと彫刻家の吉田みなみさん。 大きな油絵や彫刻を制作するスペースを都会で確保するのは容易ではないという現実的な理由に加え、「経済中心の社会も否定はしないけれど、少しの不便を感じる暮らしにこそ人間の原点があるのではないか」と、東京で暮らしながら、北海道への移住を決めました。
 「油絵や彫刻は、アートの中でもアナログな存在。自然の中での暮らしは私たちの創作活動とも直結します。蘭越町は自然も食べ物も豊かで、北海道の原風景を思わせる景色も魅力的。ここでの暮らしも創作活動のコンセプトの一つにしていきたいと考えました」と移住の経緯を語ります。
 2020年には「Yoshida Art School」を開設。アートまつりの舞台美術も同スクールで学ぶ子どもたちが担当し、ヘンゼルとグレーテルをテーマにした表情豊かな木や葉、天井から下がるドーナツなど、子どもたちの自由な発想が場内を彩りました。楽しそうに会場を見回す来場者の姿に、吉田さんたちもにっこり。
 「自分たちの作品が舞台美術として生かされることは、子どもたちにとっても、非常に良い経験になりました」


吉田 卓矢/吉田みなみ
(よしだ・たくや/よしだ・みなみ)

17歳の時に渡米し、ニューヨークとニューハンプシャー州で絵画や彫刻を学ぶ。2019年から蘭越町に移住し、日本とアメリカで個展やグループ展に出品。2020年から彫刻家の吉田みなみとYoshida Art Schoolを開設。作家活動をしながら全ての人がアートを楽しめるよう様々なレッスンを行っている。
https://www.yotakpainting.com

 

●Event Report | 2022.9.25



オペラ紙芝居「ヘンゼルとグレーテル」からアートまつりはスタート。お話も歌も、みんなしっかり楽しんでいました。

お題に出た動物や植物を、身体を使って表現する「わくわくドキドキいきなりダンス」。リズムにのせてみんな思い思いに全身で表現しました。

イベント後半は廃校になった小学校を中心に、バリトン歌手の今野博之さんが現存2校を含む全9曲の校歌を披露。プロの歌声で蘇る母校の校歌に、会場内では涙を流す人も。「風光明媚な土地ゆえに、歌詞も曲も雄大なものが多い」と今野さん。


2FではYoshida Art Schoolの生徒である藤井風人さんの個展を開催。おおらかで色鮮やかな作品に惹きつけられました。

当日は先着50食で倶知安町のレストラン「Japanese Restaurant AKARU」のお弁当が予約販売されました

ロビーではバルーンのアーチが来場者をお出迎え

寝そべったり、しゃがんだりと「わくわくドキドキいきなりダンス」は大人も子どもも大盛り上がり。会場内は終始笑顔と歓声に溢れていました


2Fにはスタンプあそびコーナーも設置。子どもたちが手形や足型、野菜などを使って色とりどりのスタンプを楽しんでいました

美しい歌声をより一層輝かせてくれたピアノとカホン

 

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