北のとびら on WEB

伝わる文化

白蛇姫舞(はくじゃひめまい)/鹿追町

然別湖に伝わる伝説から着想を得た伝統芸能

2023.03.31 UPDATE
伝わる文化

 
 鹿追の町が「クテウシ」と呼ばれ、アイヌの人々が鹿を追い込んで捕まえていた頃、凶作による飢饉を女神と白蛇が救ったという伝説「白蛇姫物語」が然別湖に誕生したと言われています。

 鹿追町の「白蛇姫舞」は、この「白蛇姫物語」に着想を得て始まった伝統芸能。1972(昭和47)年に、この伝説を活用して町おこし事業を考えた鹿追町商工会青年部が始めたものです。

 親子2匹による「蛇踊り(じゃおどり)」で表現される白蛇姫舞は、親蛇8人、子蛇6人の舞い手と、太鼓、笛、そして白蛇を先導する美しい衣装をまとった姫で構成されています。

「白蛇姫舞」は神楽調のため、当初は男性が姫の面をつけて姫役を担っていました。

 鹿追町白蛇姫舞保存会の会員数は28名。年齢層は20代から50代で、保存会歴30年を迎える大ベテランから3年目の新人まで様々です。この春からは高校を卒業したばかりの新人も仲間入りする予定で、発足以来、幅広い世代が地域の大切な伝統芸能を継承しています。

 「入会のきっかけは、私が地元に戻ってきたことを知った古くからの知人からの誘いです。当初はお手伝い要員だったのですが、いざやってみると非常にやりがいがあり、地元の郷土芸能として白蛇姫舞を後世に残したいと思い、正式に入会することを決めました」と話すのは、保存会歴10年目を迎える三井基裕さん。
三井さんのように誘われて入会する人や、興味を持った移住者、子供の頃から手伝っていた若者など、その経緯は様々です。

最初の公演は昭和47年6月に開かれた「第1回然別湖白蛇姫祭」。 この時使われた白蛇は、針金を輪にした骨格に、白いカーテン地を巻き、うろこを描いたもの。 その後、長崎の龍づくりの名人、中山金次郎氏に制作を依頼し、昭和48(1973)年5月に初代の本格的な親蛇が誕生。 その4年後に子蛇が完成し、この時から本来の伝説に沿った一人の姫と二匹の白蛇による舞が完成しました。

 ダイナミックな動きで魅せる白蛇を表現するには力強さに加えて繊細さも必要。それぞれ手に持った棒を上下左右に動かして、白蛇の頭や胴をくねらせながらスピード感や優雅さを表現します。

 「大切にすべき技術は多岐に渡りますが、やはり頭を持つ人がしっかりと決められたルートで走り抜けることが大切です」と三井さん。

 「蛇がとぐろを巻く時は、それぞれ前の人が通るルートよりも少し外側を通ることで蛇に躍動感が生まれます。しかし、その分遠心力が働くので、見栄えを良くするためには後方の舞い手ほど沢山走らなければならず、運動量はかなりのものです」

 技術の習得にはどれくらいの時間を有するのかという質問に、「蛇らしさを表現するために、蛇行しながら歩いたり走ったりと、舞い手の動きも様々なので、正直これで良しというものはありません。あくまでも継続して技術向上を図るので、年数で答えられるものではないのです」と語る三井さん。その言葉には、伝統芸能の担い手としての誇りが感じられます。

 「白蛇姫舞」は毎年、7月の第一土曜日に開催される「白蛇姫まつり」と9月中旬に行われる鹿追神社秋季例大祭で披露されるほか、11月上旬の町民文化祭では、保存会メンバーの指導のもと、子どもたちが白蛇の舞い手を担当して披露されます。

 通常は本番2ヶ月前から6〜8回程度集まって稽古を行いますが、新人が初めての舞に挑戦する場合は、さらに早い時期から集まって練習を重ねていきます。

「白蛇姫舞」は町民たちが知恵を絞りながら、大切に育ててきた手作りの郷土芸能。 だからこそ思い入れも強く、若手の継承者も自然と育ちます。

 コロナ禍で多くのイベントや祭りが中止になる中で、鹿追町白蛇姫舞保存会も例外なく「白蛇姫舞」を披露する機会が失われました。
「舞いは人と人との距離がどうしても近くなってしまうので、活動は手探り状態でした。それでも昨年、3年ぶりに「白蛇姫まつり」が開催できたことは、この上なく喜ばしいことでした。沢山の観客を前に舞うことは、喜びや感動する心の大切さを再認識できる貴重な機会になりました」と三井さんは振り返ります。

 道内各地に伝わる伝統芸能の多くは、入植時に他県から受け継いだものですが、「白蛇姫舞」は地元に伝わる伝説をもとに、町民の手によって作られた珍しい伝統芸能です。また、「白蛇姫まつり」では、「白蛇姫舞」の前にアイヌ伝統舞踊やムックリの演奏も楽しめる構成になっていて、アイヌ文化を身近に感じられる大切な機会でもあります。

 若手の継承者にも恵まれている「白蛇姫舞」。
アイヌの人々から伝わる伝説を大切にしながら、町民の手によって作り守られてきた伝統芸能として、これからも受け継がれていくことでしょう。

あわせて読みたい
トップページ
北のとびら on WEB
COPYRIGHT 2021.HOKKAIDO ARTIST FOUNDATION., ALL RIGHTS RESERVED.