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伝わる文化

奴さんの謎にせま…れなかったの巻

すーさんの「伝わる文化」おかわり【三杯目】

2022.03.30 UPDATE

北海道に来て、道内の民俗芸能を調べていたときに、目についたのが「奴」「奴振り」。
この「奴」は全国でもいくつかの地域に固まっていて、北海道南部はそういった地域の一つとなっています。
都道府県別の数で言えば5本の指に入るそうです。
道内の奴には上磯奴のように道外から伝わったものもあれば、松前藩の登城行列を伝えたものもあるようです。
奴行列は「大名行列あるいは神社の渡御行列など、諸々ひっくるめて身分の高い方のお供をするもの」と考えるとイメージが統一されるかもしれません。

とはいえ、その「奴」という言葉にいざ向き合ってみると、大名行列で槍持っている姿や、半纏を着ている姿、などが思い出されるでしょう。
折り紙を思い出した方もいらっしゃるかもしれません。
「鞠と殿さま」を思い出した方もいらっしゃるかもしれません。
♪金紋先箱 供ぞろい お駕籠のそばにはひげやっこ 毛槍をふ~り~ふ~り~やっこらさ~のやっこらさ♪
芸能としての奴振りはもともとは大名行列時の供ぞろいをまねたものと言われています。
今でいえば仮装行列と言えるでしょうか。
まねっこですから、本来の奴さんの所作とはまた違い、見せるために様々な工夫が施されて発展していきます。
「奴」という字のとおり、もともと下働きであり、行列ではお供ですが、そのお供の動きが芸能に昇華されるとは!
当時の人々にとっては流行の先端を行くカッコイイ動きだったのでしょう。
この奴さんたちの所作はのちに歌舞伎舞踊にも取り入れられて、「奴物」というジャンルにもなりました。
元禄時代にはすでに芸能としての「奴」が成立していたそうです。
大名がいないと奴行列はありませんから、意外と短い間に芸能として成り立ったことがわかります。

奴さんにも実は種類がいくつかあって、これもややっこしいので(寒い)省きますが、このように道具を持って踊る(道具を振る=>奴振り)ことは、ただのパフォーマンスではなく、長い道中の無事を祈り、清めの意味もあったそうです。
あの長い毛槍も、もともとは鉾で、古くは長い鉾を振って疫病を集め、羽の付いた槍でそれらを祓ったともいわれています。
また、一部の地域では、野辺送りの際にも奴の行列がありました。
こちらも祓いや清めに関係がありそうですね。

…奴さん、思ったより奥が深くて手こずりました。
ちなみに、当時奴さんたちの半纏には白い四角の紋が描かれていて、それが白くて四角な豆腐に似ていたので豆腐を”やっこ”と呼ぶようになったという説があります。江戸っ子の粋な洒落でしょうか。

それではそろそろ奴さんに思いを馳せながらお豆腐で一杯ということにしましょうか。

豆腐に見える?四角い紋の入った半纏

角 美弥子(すみ みやこ)
北海道教育大学岩見沢校芸術・スポーツビジネス専攻准教授。
修羅の国出身。無形の文化財の保存継承を研究対象とする。授業では正しい琵琶の見分け方に時間を費やす。好きな能楽の曲は「猩々」。酌めども尽きぬ甕が欲しい。
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