広大なブナの森と渓谷に囲まれた道南最高峰の狩場山。島牧村とせたな町にまたがるこの山を、アイヌの人々は「カリンパ・ウシ(さくらの咲くところ)」と呼びました。
「世界遺産になるような豊かな森があり、そのおかげで豊かな海がある。島牧村は森と海が近く、そのつながりを強く意識できる土地です」と話すのは吉澤俊輔さん。「アイヌの人々が見ていた風景を未来へと繋いでいきたい」という思いを込めた屋号「さくらの咲くところ」で、道産木材を使った家具や木工品づくり、イベントの企画など、様々な活動を通して「自然と共にある暮らし」を提案しています。
住まいも家具も、おやつも全て手作り。 今日のおやつは自家栽培のりんご。 吉澤さんに見守られながら準備をする娘さん
りんごの皮や芯は捨てずにパンを焼くための天然酵母づくりに活用
ご両親が営むユースホステルで施設内のテーブルや椅子を自作する父親の姿を見て育ち、「自分で使うものは自分でつくる」ことが染み付いたという吉澤さん。ものづくりは家具や木工品だけに留まらず、ホステルの敷地内に建つ自邸も自ら改修。海水を煮詰めて塩を作り、食卓に並ぶ果物やお米もすべて自家栽培です。
こうした自給率の高い暮らしを強く意識するきっかけになったのが東日本大震災。エネルギーに限りがあることを再認識し、太陽光発電パネルを設置。エネルギーや住まい、食べものや暮らしの道具などを提供する出展者が集い、持続可能な暮らしの提案と人と大地の繋がりを大切にした「小さな町の小さなマルシェ」も企画。毎年秋に開催されるこのマルシェは今年で11年目を迎えました
「しままきのき1歳児記念品支給事業」として、村の子どもに贈る島牧の木を使った積み木もつくっている
自宅に併設した工房で家具や器をつくる吉澤さん。 娘さんもものづくりに興味津々。工房に顔を出してお手伝い
暮らしに必要なものをつくる、使う、食べる。大自然の中で繰り返すシンプルな営みは、ここ数年のコロナ禍の中でも何ひとつ変わることはありませんでした。
「地球の9割は人間以外の生き物。人間社会の視点ではなく、自然界の視点から考えると、コロナ禍も大きな出来事ではないのかもしれません」と柔らかな笑顔で話す吉澤さん。その言葉には、「自然と共に生きる」ことのかけがえのなさと、力強さがありました。
島牧村生まれ。島牧ユースホステルを営む両親と共に、豊かな自然の中で育つ。道産木材を使った家具づくりをはじめ、サスティナブルな暮らしを体現すべく自宅をセルフビルドでリノベーション。自然と共にある暮らしを提案している。