先代の竹下日吉さんが中標津町に入植したのは1956年のこと。竹下牧場の歴史は日吉さん自ら未開の原野を開墾し、始まりました。「この地で生きる覚悟を決めた時からいつも力になってくれた牛たちに感謝」「酪農を生業にできたのも、牛のおかげ」、そんな先代の想いは2代目の竹下耕介さんに受け継がれています。「私たちにとって、牛は牛乳や肉をわけてくれる以上に大切な存在です。その素晴らしさや価値をもっと世の中に伝えたい」と竹下さんは話します。
企業ブランディングの開発に着手したのは、2017年秋。牧場の経営自体は安定していた一方、一般消費者との距離が遠くなっていることを危惧していた時期でもありました。今一度、牧場としての軸を明確にすることで、スタッフとこれからのビジョンを共有し、竹下牧場のファンを増やすことをゴールに見据えての一歩でした。さっそく知り合いのデザイナーに相談し、クリエティブディレクターの寺田侑司さんと、コピーライターの東井崇さんに出会います。
「私は伝えたいことをよりわかりやすく、魅力的に伝えてくれるデザインの力を信じています」という竹下さんの期待に応えるように、東井さんが丁寧なヒアリングを重ねて生まれたのが、「牛と、新しい関係を。」という企業理念です。
竹下牧場の企業理念とロゴ
寺田さんがデザインしたロゴマークは、頭文字「T」の中に、牛と人の顔を1:1の比率で並べ、牛と人間が対等に生きる“新しい関係”を表現し、「牛ともっと近い関係で寄り添って生きてほしい」「牛という動物をもっと好きになってもらいたい」をカタチにしました。
「自分のアイデアや拙い言葉を形にしてくれるプロの力があってこそ生まれたもの」とその仕上がりに感心したという竹下さん。
WEBサイトのデザインにも着手し、本格的なブランディングがスタート。さらに「自分の牧場だけでなく、まちの未来を考えるようになった」という竹下さんは、チーズ・スープの製造事業、宿泊事業としてゲストハウス「ushiyado」や、一棟貸しの宿「farm villa taku」をオープンさせるなど、「たくさんの人に中標津の魅力を知ってほしい」と人を呼び込む仕掛けづくりにも尽力しています。2021年には竹下牧場の理念や取り組みが評価され「GOOD DESIGN AWARD 2021」のブランディング部門を受賞。酪農の枠にとらわれず、新しい分野を牛たちと共に力強く開拓していく竹下さんは「実はまたちょっと面白いことを考えているんです」と茶目っ気たっぷりに語ります。開拓者の挑戦は、まだまだ続きそうです。
牧場から離れた町の中心部に作ったゲストハウス「ushiyado」。牛舎をモチーフにした空間づくりもユニークだ。
2023年夏、牧場の敷地内にオープンした「farm villa taku」は8名まで宿泊可能な一棟貸しの宿。特製チーズやポタージュスープ「LETTER SOUP」などをウェルカムフードとして提供。